石田ゆうすけのエッセイ蔵

旅作家&エッセイスト、石田ゆうすけのブログです。


※親サイトの『7年半ぶっ通しチャリ世界一周』はパソコンを新しくしたためにストップしたままです。
近況報告や各種案内は、もうしばらく、当ブログにて行います。
23年前のヤマザキパン

北陸の豪雪で車が立ち往生した現場で、

餃子の王将が500人前の食事を無料でふるまった、

というニュースを昨日紹介したが、その後、

山崎製パンも同様のことをしたとニュースで知り、

深く胸を打たれた。

 

というのも僕も以前、

山崎製パンにたいへんお世話になったのだ。

1995年、阪神淡路大震災が起こったとき

僕は広島で某食品メーカーの営業マンをしていた。

道が寸断され、食料が末端まで届いていないと知り、

それなら自転車で配ればいいじゃないかと考えた。

自社の倉庫には、店頭に出せる期限を過ぎた食品が

常に大量にあった。

賞味期限内だが、捨てられるしかない運命の食品だ。

その大量の食品と自転車を車に積み、

地震発生から5日後の土曜の朝に出発しようと考えた。

大型ワゴン車を用意し、一緒に行ってくれる人も集めた。

 

ところが、土壇場になって総務課の主任から反対されたのだ。

賞味期限内ではあっても、古い商品だし、

それを配布して何かあったら会社の名に傷がつく。

そのとき誰が責任取るんだ、と。

 

元会社の名誉のために一応書いておくと、

これは当時の広島支店総務課主任の個人の判断である。

なんならこれぐらいは書いてもいいと思うが、

この主任は下には厳しく、上にはこびへつらう

漫画のキャラにいそうな人だった。

僕は以前からこの人を好ましく思っていなかったが、

このときの「誰が責任をとるんだ?」という彼の言葉を聞いて

はっきりと「こいつはダメだ」と思った。

 

情けなくて腹が立って、僕はやけくそになった。

それで電話ボックスに入って

タウンページで山崎製パンの広島工場の番号を調べ、電話した。

なぜ山崎製パンだったかというと、

同社のホワイトチョコデニッシュが好きだったからだ。

(このころ発売されたものだったように思うが、

記憶違いかもしれない。念のため補足)

 

 

で、自分の計画を、僕とは何の縁もない

山崎製パンの工場長に電話で話した。

出発は明日の予定だった。

僕の話を聞き終えると、

工場長は「わかりました」と即答した。

「明日の朝、来てください。パンを用意しておきます」

耳を疑った。工場長は僕に会ってもいないのだ。

すべて電話だけのやりとりである。

しかも「かけなおします」も「検討します」もなく、

僕が話し終えると同時に、この回答をくれたのだ。

 

大丈夫だろうか、とさすがに不安を抱えつつ、

翌朝、山崎製パンの広島工場に行ったら、

工場長は笑顔で迎えてくれ、25歳の青二才の僕に

菓子パンを700〜800個、託してくれたのである。

工場のみなさんも清々しい笑みを浮かべながら

パンを車に積むのを手伝ってくれた。

それをそのまま神戸に持っていった。

聞いていたとおり道はボロボロで、交通がマヒしていた。

友人と手分けして自転車でパンを配った。

3日間何も食べていないという人もいた。

 

広島に帰って工場長に報告した。

工場長は「いつでもまた協力しますよ」と言ってくれた。

ここからは余談になるが、

僕は自分の会社の朝礼でもみんなに報告した。

自社の対応と、山崎製パンの対応の違いを説明し、

会社を批判する、という余計なこともしたのだが、

そのとき、僕は例の総務課主任を睨みつけた。

するとその主任は人の背後に隠れるという

ほんとに漫画のような行動をとった。

 

主任のハゼのようなその動きはどうでもいいのだが、

僕を行かせまいとした彼の判断については、

当時は仕方がない面もあったのかもしれないと思う。

被害者の数が桁外れの戦後初めての大震災で、

何をすべきかわからず、誰もが躊躇しているような状況だった。

今と違って情報もなかなか伝わってこなかった。

そんな状態だから、当時、企業としては

「ちょっと待て」

という判断になったのはやむなしだったかもしれないし、

実際、その姿勢をとったところが大半だったように思う。

 

それだけに、山崎製パンのあの対応はまぶしかった。

電話をかけたときの工場長のあの即答っぷり、

(何度も言うが、会ったこともない僕に対して、

電話一本で、一瞬の迷いも躊躇もなく、

パン増産を決め、そして大量のパンを託してくれたのだ)

そしてパンを取りにいったときの工場のみんなの笑顔。

普段から柔軟かつ潔い精神を宿していないと

ああいう風にはいかないと思った。

そしてそうあるためには、

個人個人の資質による部分も大きいだろうけど、

会社全体に流れる理念や社風も影響しているんじゃないだろうか。

今回のこのニュースを読んで

あのとき山崎パンに抱いたそのような思いが

まざまざとよみがえってきたのだ。

 

大雪で立ち往生の「山崎製パン」

トラックがパン配布 過去に山梨でも

(10秒で読める短いニュースなのでぜひ)

 

そういえば東北にボランティアに行ったときも、

山崎パンがたくさんあったんだよなあ。

 

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