以前取材した店が、先日テレビで紹介された。
その夜は用事があったので録画しておき、
それをさっき観たのだが、
なんともモヤモヤした気持ちになった。
その店はこれまでテレビの取材は断っていたらしい。
テレビで紹介されたら一気に人が押し寄せ、
いつも来てくれる人に迷惑がかかる、
という店主の配慮からだった。
今回はテレビのスタッフの熱意におされ、
例外的に取材を受けることにしたそうだ。
ただ、絶対、店名も看板も出すな、
ときつく念を押したとのこと。
ところが放映を見ると、
店名こそ伏せられていたが、看板が映りまくっていた。
僕の友人がたまたま放映日の翌日に
この店に行ったのだが、
開店15分後で、すでに1時間待ちだったらしい。
約束を簡単に反故にするあたりがテレビだなと思う。
でもそれ以上に我慢できなかったのが、
店のお弟子さんの扱いだ。
その店の味にほれ込み、
脱サラして弟子入りしたという方で、
懸命に修業に打ち込む姿がとても印象的だった。
番組はその彼を笑いのネタにしていた。
おっちょこちょいな映像を中心に編集し、
人を小バカにしたようなテロップを入れる。
あげく、出演者のヒロミはへらへら笑いながら
「あれは空回りするタイプだな」
と2度も言った。
なぜあのタレントが復活し、
いろんな番組で使われるのか不思議でならない。
つまり、僕はもとから彼にいい印象を抱いていないのだが、
それがなぜなのかはっきりわかった。
言われた当人がどういう気持ちになるか、
しゃべることでお金をもらうプロが
想像もできないのだろうか?
僕も世界一周から帰ったばかりのころに出たラジオで、
司会者からバカにされた扱いを受けたことがあった。
内容はもう忘れたが、
「貧乏なんでしょ」
みたいなことを、
司会者は薄ら笑いを浮かべながら生放送中に言い、
アシスタントの女性が慌ててフォローする、
というありさまだった。
司会者の言ったことは事実だったので腹は立たなかったが、
その無神経さに驚き、こいつはバカだな、と思った。
それから十数年後、その司会者は同じように
素人出演者を見下したノリで、ある番組を進行し、
あちこちで叩かれ、その後番組をおろされていた。
人ってそうそう変われないんだな、と思った。
ともあれ、店のお弟子さんと親しくさせてもらい、
頻繁にメールもやりとりさせてもらっている僕は、
ヒロミの発言にも、番組の編集にも、
たまらなく不愉快な気持ちになった。
と同時に、こう思ったのだ。
お店やお弟子さんの側に立たなければ、
普通に楽しく見ていたかもしれないと。
ちょっとドキッとした。
僕も物書きとして様々なものを発信している。
その際、読み物としておもしろく、というのは当然だが、
できるだけ笑いの要素も入れようとする。
それがもしかしたら、
誰かを嫌な気持ちにさせているかもしれないのだ。
そうなるかならないかを分けるのは、
相手がどう思うかを想像する力と、
相手への敬意だろう。
ヒロミがへらへら笑いながら言った
「空回りするタイプだな」という言葉には、
そのいずれも皆無だった。
いじりやすい相手を
自分の人気取りのためにからかう
小学生のレベルだ。
でもヒロミをそうやって非難する僕だって、
人を不愉快にさせる可能性は常にあるのだ。
あのヒロミのへらへら顔を脳裏に焼き付け、
肝に銘じなければ、と思う。
「相手がどう思うか、常に想像しなさい」
子供のころから言われるこの言葉は、
どれだけ人生経験を積んでも、
従うのはそう簡単じゃない。