石田ゆうすけのエッセイ蔵

旅作家&エッセイスト、石田ゆうすけのブログです。


※親サイトの『7年半ぶっ通しチャリ世界一周』はパソコンを新しくしたためにストップしたままです。
近況報告や各種案内は、もうしばらく、当ブログにて行います。
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移植手術のデポジット代は順番抜かし代なの?

以前、このブログで、
心臓病を患った少女、なおちゃんのことを紹介し

アメリカで心臓移植をするための募金を呼びかけました。
救う会を立ち上げたメンバーが友人の友人という縁で。
その後、募金が目標額に達し、
明後日、ご両親ともに渡米することに決まりました。
ご協力いただきました皆様、ありがとうございました。

ところで、このなおちゃんのことを初めてブログに書いたとき、
その翌日ぐらいでしたか、
ある学生の方からメールをいただきました。
便宜的にAさんとしておきます。

以下、そのAさんのメールを要約して載せます。


突然のメール失礼致します。
いつもご著書、ブログなど拝読させて頂いております。
この度は最近のブログ記事にありました、
心臓病の子どもを支援する会について
どうしても腑に落ちない事があり、
石田さんのお考えを伺いたく思い、
メールさせて頂きました。

まずこの心臓移植手術ですが、
手術にかかるとされている莫大な費用の大半が
外国の現地で手術を待っている人々の
順番を抜かす為の「デポジット」である事はご存知でしょうか。
つまりもしこの莫大な募金によって
日本人の彼女が救われたとしても、
順番を抜かされた外国の子の命は救われず、
結果救われる命の数は変わらないのです。

こういった募金活動や、
そもそもの順番抜かしを認める様な制度自体に
世間の批判は多々ありますが、
個人的には当事者である家族が
他人を蹴落としてでも我が子を救いたい
と思う気持ちは分からなくもないと思っています。

疑問に思うのはこういった募金活動に賛同し、
私財や労力を投じている第三者の気持ちです。
こうした心臓移植手術の現状を知らずに
純粋に1人の命が救われると思って行動しているのか、
それとも他にあえて外国人の子ではなく
日本人の子を救う理由があるのか。
石田さんはどの様にお考えでしょうか。
2億ものお金があれば何百人、何千人の
子どもを救える活動もありますが、その中でも特別に、
石田さんご自身も特に面識のないであろう
1人の子を救う活動を取り上げるのは何故なのでしょうか。
石田さんのお考えを伺いたく思います。

長文失礼致しました。
これからも石田さんのご活躍をお祈りしております。
ありがとうございました。



断っておくと、
(上に載せるさいに削りましたが)
メールの最初にはきちんと自己紹介があり、
僕の本との出会いや感想も丁寧に書かれていました。

最近は名前も名乗らずに、
「南米の情報ください」
とひと言だけ書いて
メールをよこす輩も多いのです。
「まずはどういう経緯で私にメールを送られたのか、
お伝えいただけますか」
などと返すと、たいていなしのつぶて…。

宛先を「石井さま」と書いてよこす学生もいたので、
「僕は石田です」と返したら、
「すみません!石井さま!」
という返信が来たこともありました。

自分が書いたメールを読み返す間もないくらい

忙しいようです。

そんな輩が本当に多いなか、
Aさんのメールはとても好印象で、内容も興味深いものでした。
恥ずかしながら、「順番抜かし代」云々のことは
僕は初耳でした。

で、自分なりにいろいろ調べて、
次のようなメールを彼に送りました。
これもある程度、要約します。


ご丁寧なメールありがとうございます。
いま締め切りに追われてバタバタしており、
きちんとした返事にならないかもしれませんが、ご了承ください。

ご質問に先にお答えしますと、
私がブログに紹介した理由は、友人から頼まれたからです。
救う会のサイトも読み、面識のない少女ながらも、
友人の友人の娘というところに、
まったく知らない子よりは近しさを感じ、
助かったらいいな、
という思いでブログに書きました。

デポジットが実質、順番ぬかし代、との見解は知りませんでした。
調べてみますと、なるほど、ネット内ではいろいろ書かれていますね。
私はネットの世界とは意識的に距離を置いているので、
このあたりのことはまったく存じ上げませんでした。

ただ、メディアからの情報には常に懐疑的であれ、
と私自身考えているのと同様に、
ネット内でまことしやかに流れている話にも
同じスタンスで臨むようにしています。

だから本件の「デポジット=順番抜かし代」という見解についても、
「ほんとか?」と疑いました。
ネット内に書き込まれている意見は、
ほとんどが感情的なものに思えましたから余計に。

少し調べた結果、次のようなものを見つけました。
日本心臓移植研究会、という専門家たちの団体で、
30年以上の活動歴があるようです。
http://www.jsht.jp/registry/japan/

以下、このサイトから引用します。
(文章を整理して載せます)

日本で心臓移植を受けた人は
この14年間(1999〜2013)で185例です。
そのすべてが緊急度の高い「ステータス1」の患者で、
さらにその90%の患者に補助人工心臓が装着されていました。

それに対し、米国では1年間に約2,200 件の心臓移植が
行われていますが、
「ステータス1」 の患者はその62%で、
補助人工心臓を装着されている患者は45%でした。

日本で心臓移植を受けた185例の患者が

移植を待っていた期間は、
最短で29日、最長は3,838日で、平均にして981 日、
補助人工心臓の装着期間は
最短で20日、最長は1,738日で、平均896 日でした。

これに比べ、米国では

「ステータス1」の患者の平均”待機期間”は56 日、
補助人工心臓の平均装着期間は50 日です。
このように日本の移植待機期間は極めて長いのが特徴です。

以上。

臓器移植には必ず優先順位があり、
病状の深刻さ、緊急度がその優先順位に
大きく関わってくることはAさんもご存知だと思います。
補助人工心臓をつけている人は
「ステータス1」となり、優先順位が高くなるわけです。

 

アメリカで移植を受けた患者の約4割が
「ステータス1」ではなかった。
つまり緊急度は低かった。
ならば一刻を争う自分の子供を先にしてほしい――
その考えが倫理的におかしいとは思いません。
(ちなみに私がブログに書いた「なおちゃん」も
補助人工心臓をつけた「ステータス1」の患者です)。


では、アメリカと日本でなぜこういう差が出るのか?
答えは簡単です。
おわかりだと思いますが、ドナー数の圧倒的な差です。
重複しますが、上の引用文によれば、

日本国内の心臓移植の実例は、

移植が開始された1999年から

2013年までの14年間で185件なのに対し、

アメリカでは1年間で2200件
これほんとかよ? と思ったので、
他のソースも調べてみますと、ほんとっぽいですね。

日本移植学会のサイト

このページの下のほうに
臓器移植提供者数の国別比較が載っています。

そこだけ抜粋します。


なぜこれだけドナー数に差が出るのか?
それはAさんもご存知だと思いますので、省略します。

以上のことから、「デポジット=順番抜かし代」という見解は
根も葉もないことで、
私がここに書いたことが真実、
と言うつもりはありません。
私は現場を自分の目で見たわけではありませんから。

ただ、とりあえず現段階では以上のようなことが、
ある程度信頼できるソースから拾えたので、
例のブログ記事にも修正は加えずそのままにしておこうと思います。


結局、長々と書いてしまいました…。
ま、興味深いことでしたので。

Aさんには感謝しております。
デポジットについてそのような批判があることを、
私は実際知らなかったし、
そのおかげでいろいろ勉強できたので
(とはいえ、ほんとに時間がないので、
刊行物までは読んでいないし、
ネット内の情報もサッとしか読んでいませんが)。

そこで、お願いがあります。

Aさんが「デポジット=順番抜かし代」と考えるに至った背景や
情報ソースを是非教えてくれませんか?
順番抜かしという要素は本当にないのか、あるのか? 
そこは非常に興味がありますので。

いしだ

以上。

このメールを出したのが約3ヵ月前。

Aさんからは…まだ返事が来ません。

やれやれ。

ということで、
Aさんの許可はとっていませんが、
上のやりとりを載せることにしました。
移植手術のための募金活動について、
たしかに批判もたくさん見受けられるので。

もっとも、この件について何か別の情報をお持ちの方、
また何かご意見をお持ちの方、
よかったらご連絡ください。
(すみません。返事はできないかもしれませんが…)

 

<追記1>

このブログを投稿してから間もなく、

Aさんから丁寧なメールをいただきました。

メールのアカウントを替えたため

僕の返信メールを見逃していたこと、

また僕がここに書いたようなことは知らなかった、

順番抜かし代については二次情報を参考にし、

深くは追求していなかった等の説明がありました。

 

<追記2>

4年後の2019年7月8日に、

あることを契機に再び調べてみたところ、

アメリカ国内の心臓移植の状況にも多少の変化があり、

渡航移植の是非についての判断も微妙になってきました。

よろしければこちらもどうぞ。

2019年7月8日の記事

 

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