原発はいやだけど、
自然エネルギーじゃ電力は安定しないんでしょ。
じゃあ仕方がないよね。現実問題として。
という人にぜひ観てもらいたい。
現在公開中のドキュメンタリー映画である。
原発が危険で、手に負えない猛毒ゴミを出し続ける、
というのは誰でも知っているけれど、
じゃあ原発がなくなったらどうすればいいのか?
その疑問に真正面から向き合った映画だ。
この映画を紹介していたサイトに
次のような一文があった。
「監督の河合弘之氏は原発推進派の理屈など
すべて論破できると豪語している」
ほう。それは聞いてみたい。
ということで観にいったわけだが、いや、参りました。
自然エネルギーの問題点(とされている点)に
ひとつひとつ向き合って、
それらすべてに回答を示している。
(解決しきれていない問題もあるが、
それもうやむやにせず、きちんと提示している)
そのうえでいかに自然エネルギーが有効で、
かつ経済的恩恵を国や地域にもたらすか、
海外の実例を交えながら証明してみせる。
理想論や感情論ではなく、
事実を積み上げて理路整然と
実証的に映像を見せてくれるから説得力がある。
いかにも弁護士らしい構成だ。
(監督の河合氏は数々の大型経済事件を
担当した敏腕弁護士)
とくに鮮やかだったのがドイツのシークエンス。
ドイツが脱原発に舵を切れるのは、
隣国フランスやチェコが原発でつくった電力を
ドイツが輸入しているから、というのは
原発推進派が決まって引き合いに出す話だが、
これについても明快な反論を見せ、
まさに目から鱗が落ちる思いがした。
でもこういった”論破”はこの映画の本質ではない。
世界でいま何が起こっているのか。
自然エネルギーがいまどこまで進んでいるのか。
豊富な海外ロケから得られた驚きの事実を、
観客は目の当たりにする。
この映画の肝はそこである。
自然エネルギーの称揚を意図した編集であることは
念頭に入れて見なければならないが、
それを差し引いても、
自然エネルギーの有用性や経済性は
いまや無視できないどころか
積極的に取り組むべきレベルなのだということがわかる。
地球に優しいからだけではなく、
極めて魅力的な“成長産業”なのだと痛感させられる。
ではなぜ日本は世界の潮流から取り残され、
自然エネルギーの開発や導入が遅れているのか。
なぜあんな事故を起こしたにも関わらず、
原発はやっぱり必要という空気が蔓延し、
自然エネルギーへの転換は現実的じゃない
という考えが大勢なのか。
そんなことを思いながら映画を観ていると
「報道の自由度ランキング」のことが
いやでも頭をよぎった。
日本の順位は、2010年は11位だったが、
2011年の原発事故以降は順位を下げ続け、
去年はなんと72位まで下落している。
報道の自由度が
先進国としてはありえないくらい低いのである。
我々は北朝鮮のことを笑えない。
日本の国内では当たり前になっていることが、
世界全体から俯瞰して見れば、
異常だということがよくわかる。
その俯瞰の視点を与えてくれるのが
この『日本と再生 光と風のギガワット作戦』だ。
ドキュメンタリー映画と聞くと
抵抗感を覚える人は少なくないと思う。
でもこの映画は堅苦しいものではまったくない。
意外なことにかなり笑える。
劇場が爆笑に包まれるシーンもある。
軽快で楽しい。
それに論旨がきれいに整理されているので、
じつにわかりやすい。
冗長とは無縁で、
テンポがいいからグイグイ引きつけられる。
上映時間はわずか1時間40分。
スマホをいじっていたら
あっという間に過ぎる時間だ。
そんな短時間にもかかわらず
情報量が多いから効率がいい。
まさに省エネ。
観る前と観たあとでは
脳の組成がきっと変わっている。
賢くなっている(笑)。
少なくともそう感じることができる。
あと、どういうわけか音楽もいい。
と思っていたら、エンドロールで
ある人の名が出てびっくり。
なるほどね。素敵だな。
未来の可能性を見せてくれる映画である。
だから明るい空気にあふれていて、
観終わったあとは爽快な気分になっている。
思想は個人の自由。
この映画を観て、
「いや、現実的には無理だ」
と考える人がいてもいい。
ただ知識としてこの映画を観ておいて絶対に損はない。
*
渋谷のユーロスペースと
横浜シネマリンでやっています。
どちらも3月10日(金)までなのでお早めに!
お近くの映画館でやっていなくても、
各地で自主上映会が開かれています。
こちらをチェックしてみてください。
また自分で上映会を企画してもいいかと。
貸出料金は2回の上映で5万円と格安。
ひとり1000円の料金なら、
1回の上映につき25人集めれば
貸出料金はペイできるわけです。
そこらへんの詳細はこちら
また、僕がこの映画を知るきっかけになった
映画批評サイトはこちら。
この人とは映画の好みが違うなあと思いつつ、
文章がおもしろいのでいつも読んでいます。
この『日本と再生』の評は素晴らしいです。
そうそう、上映後、監督が登壇し、
10分ぐらい話されていました。
ユーモアたっぷり、めっちゃおもろい人です。
頭がいいうえに行動力の塊。
そして鋼鉄のように強靭な意思。
生き方がロックです。かっこよすぎる。
パンフレットにサインをもらいました(笑)。
感嘆符がいいなあ。御年72歳。なんたる活力。
*
追記
この映画のサイトの中にあった文章がとてもよかったので、
リンク張っておきます。
哲学者、小川仁志さんの記事です。
→映画の感想。
長くないので、一瞬で読めます。