出版社からこういう本が届いた。
穂村弘×堀本裕樹著
歌人の穂村さんと俳人の堀本さんが
いろんなジャンルの人から出されたお題で
短歌と俳句をつくるという趣向。
それぞれの歌や句にはエッセイもついていて
歌集というより読み物に近いか。
いやおもしろかった。
お題がめちゃくちゃである。
藤野可織(作家)…「信じられない」
又吉直樹(芸人)…「唾」
新妻香織(相馬市議会議員)…「放射能」
長嶋有(作家)…「部長」
藤田直哉(文芸評論家)…「共謀罪」
小松孝知(運送業)…「おいてけぼり」
などはまだいいほうで、
荒木経惟(写真家)…「挿入」
ビートたけし(コメディアン)…「夢精」
壇蜜(タレント)…「安普請」
上のふたつは、出題者の名前がなければ
「小学生か!」という感じだし、
壇蜜さんはどこからこのお題を思いついたんだか。
やっぱり並みのセンスじゃないなと敬服してしまった。
(上の二氏じゃなくて壇蜜さんが)
これらの無理難題におふたりとも見事に応え、
それぞれのスタイルに基づいた歌と句をつくりあげていく。
(作風が対照的だから、コントラストもおもしろい)
その歌や句がつくられた背景のエッセイを読んでいると、
歌人・俳人の言葉に対する感受性に唸らされてしまう。
ふと思ったのが、お題の言葉自体に詩情があれば
歌も句もますます力を増すのかなと。
たとえば「古本屋」。もうこれだけで匂いたつ言葉というか。
黒船レディと銀星楽団という楽団(?)がいるのだけど、
彼らの「古本屋のワルツ」という歌は
世の中に古本屋という言葉がなかったら
生まれていなかっただろうなという名曲です。
閑話休題。
この本の中の「古本屋」というお題に対する歌と句が
僕はもうほんと大好きで、
んでそのおふたりのエッセイもすんごく素敵。
(穂村さんのほうは噴き出してしまった)
「カルピス」の歌と句もいい。
「古本屋」は言わずもがな、
「カルピス」もその語自体に詩情を感じません?
あ、それでなぜこの本が出版社から僕に届いたかというと、
僕も50人の出題者のひとりとして参加させてもらったから。
菱刈チカ(整体師)…「背骨」
北村篤生(牧師)…「罪」
のように、出題者は己のバックボーンを
反映したお題を出すことが多く、
編集者もそれを期待しつつ
いろんなジャンルの人にお題を依頼したんだろうけど、
旅行作家としての僕が出したお題は、ある動詞。
一見、旅とは無縁の言葉だけど、実はすごく関係があって、
各地で僕が見とれた人々のある表情を表す言葉なのだ。
この語から生まれる歌や句を見たい、と思って出したわけだが、
期待にたがわず素敵な作品をつくっていただいた。
短歌や俳句になじみのない人もエッセイがあるから楽しめるし、
日常が豊かになるという歌や句の効用も
同時に得られる本だと思うので、よかったら。
装丁もめちゃ凝っています。立体&銀ピカ。