近所に住む友人夫婦と居酒屋で
夏の旅の報告会をやった。
彼らが訪れたある国の写真を見せてもらい、
鮮度抜群の旅の話を聞きながら酒を飲んでいたら、
僕は脳の中でいつの間にか旅を始め、
現地の空気を吸っているような気分になった。
その国のある町に思い出があった。
客引きの子供と仲良くなったという
どこにでも転がっている話だが、
僕の中でその子はとりわけ印象的だった。
10歳の少女だが、まったく笑わず、
そして頭の回転がとても速かった。
僕はその町に1週間近く滞在し、
彼女と毎日しゃべった。
彼女はいつしか僕を名前で呼ぶようになった。
最終日、彼女がお母さんとバスに乗るところを見た。
彼女は「ユースケー!」と叫び、
満面の笑みを浮かべながら手を振ってくれた。
それだけの話なのだが、僕にとっては大切な思い出だ。
友人夫婦が旅に出る前に
僕は「彼女を探してみて」と冗談半分で言い、
当時の彼女の写真を彼らのスマホに送った。
友人夫婦もその町が気に入ったようで
4日滞在したらしい。
その最終日、ふと僕の話を思い出し、
茶店の店主に彼女の名前を伝え、
スマホの中の写真を見せたら、
「ああ、彼女なら100m先の店にいるよ」と。
なんと10秒で見つかったらしい(笑)。
その店に行ったら、
入るのに腰が引けるほど立派な店だった。
彼女は4人の子のお母さんになっていた。
見せてもらった彼女のスマホには
某国の首相夫人と並んで写っている写真があった。
10歳から客引きをしていた貧しい女の子が、
一国の首相が訪れる店を営んでいたのだ。
友人夫婦が撮ってきた彼女の写真を見たとき、
胸がいっぱいになった。
変わっていない。
「君はきれいな女性になるよ」
と僕が18年前に言ったとおりになっていた。
幸せそうな顔だった。
友人夫婦は彼女の動画もとっていた。
3ヵ月前に生まれた4人目の子をあやしている。
彼女は赤ちゃんに向かってきれいな声で歌っていた。
昨晩は本当にうまい酒を飲んだ。
自分の単純さにあきれるが、
幸福な気持ちのまま寝たら、
その町を旅している夢を見た。