石田ゆうすけのエッセイ蔵

旅作家&エッセイスト、石田ゆうすけのブログです。


※親サイトの『7年半ぶっ通しチャリ世界一周』はパソコンを新しくしたためにストップしたままです。
近況報告や各種案内は、もうしばらく、当ブログにて行います。
幻のパン
ぼくはパンが好きだ。
中でも、山崎パンが好きだ。
なぜなら、阪神大震災の時、ぼくはひどく個人的な衝動でボランティアに広島から駆けつけたのだが、その時、山崎パンは700個もの菓子パンを、まったく面識のないぼくに譲ってくれたからである(山崎パン、広島工場のみなさま、その節は本当にありがとうございました)。

だからといって宣伝するわけではないのだが、先日、ものすごくうまいパンに出会った。
山崎パンの季節限定「マロンチョコデニッシュ」である。
これは、あのロングセラー商品「ホワイトデニッシュショコラ」(板チョコ入りデニッシュ)の応用版である。
もともと、ぼくはこの「ホワイト〜」を菓子パンの横綱と考えていた。
(これを置いていないコンビニは、何を考えているのだろう、と不思議でならない。確実に客足を遠のかせているのではないか。少なくともぼくの足は遠のいている)

その「ホワイト〜」の「季節限定」版!
消費者心理をたくみ操る、この企業戦略的コピーにぼくはいとも簡単にひっかかってしまった。早速それを購入して食べてみた。

「うまあああああっ!」
びっくりした。
栗が本当に入っているのではないか、とかんぐってしまうぐらいのホクホク感に、まろやかさ。デニッシュの生地との相性も抜群である。

お気に入りの本のページがどんどん減っていくのを寂しく思うように、かじったそばから減っていくマロンチョコデニッシュに、ぼくは惜別の念をいだいた。それほどうまかった。

それから不思議なことが起こった。
その日から、コンビニにパンを買いに行く度にマロンチョコデニッシュを探すのだが、なぜかどこにもないのである。
もう一週間以上経っているが、それからまだ一度もお目にかかっていないのである。

あのうまさのことだ、ひょっとすると、巷では大ブレイクして、店に並んだ瞬間に売り切れているのかもしれない、と本気で考えたのだが、どうもそうではないらしい。
というのも、居酒屋で友だちと飲んでいて、パンの話になる度に、ぼくはマロンチョコデニッシュのことを言うのだが、誰一人、それを知らないと言う。

狐につままれた思いである。
ぼくはひょっとして、夢を見ていたのではないか。
現実には存在しない、幻のパンを食べたのではないか。

一旦そう思い出すと本当にそう思えてきた。気味の悪い感触だった。
自分がどの地に足をつけて立っているのか、ちょっとあやふやな感じがしたのだ。

| グルメ |
勝利への挑戦者
友人Aから聞いた話。
今日、Aはボクシングの試合を見に行った。
そこで印象的な男に会った。

31歳の4回戦ボーイ。仮に「T」とする。
なぜ、そのTが印象的だったか。
プログラムに書かれている彼の戦績が、ちょっとすごかったのだ。
10戦、8敗2分け。
つまり、一度も勝ったことがない。

リングに出てきたその男Tは、やつれた感じのする男だった。
対する相手は10歳年下の若者。
会場に、アナウンスが響く。
「青コーナー、T、……8敗2分け」
そのアナウンスが、Aにはひどく残酷なものに聞こえた。
Aは、Tを見ていて、ひょっとしたら――、と思った。
ひょっとしたら、自分が偶然見に来た今日の試合で、Tは初めて勝利を収めるかもしれない――。
Aは祈るような気持ちでTを見つめた。

しかし、イメージは裏切られた
Tは負けた。
3ラウンドで、相手のパンチを浴び、口から血を吹いて、マットに沈んだ。
Tの戦績は9敗2分けとなった。

これだけである、Aから聞いた話は。
これだけの話なのに、ぼくはいやに打たれた。
顔を血に染めながら、マットに横たわっているTの姿が脳裏に浮かんだ。
そのTのことがしばらく頭から離れなかった。

負けても負けても、なお、彼をリングに向かわせるものはなにか?
「せめて1勝を」 という意地か。
そもそも、彼は勝利の喜びをかつて味わったことがあるのだろうか。
いや、おそらく、アマの時代には味わったのだろう。
では、その時の喜びが忘れられず、それをプロの場で勝ち取るまでは止められない、というわけか?
しかし、いったい、彼の執念はなんなのか。

ボクシングはテレビ中継でしか見たことがない。
そこに出てくる選手たちは、みんな一様にすばらしい戦績を持つ。
1敗という数字がついていない者も少なくない。
しかし、それとはまったく逆の男もいた。

いったい、人は、それほどまでに負け、その度に挫折感を味わいながらも、まだ挑戦できるものなのか?

ぼくは知りたいと思った。
彼を試合に向かわせるものは何なのか。

そして、彼は次の試合も出るだろうか?



| スポーツ |
職人の作った即席ラーメン
「麺職人」というインスタントラーメンを食べた。
戦慄が走った。
ここまで来たのか、日本のインスタントラーメンは…… と、思った。

これは即席麺のひとつの完成形といってもいいかもしれない。
麺の味、そして歯ごたえは、もはや普通のラーメン屋さんのそれとほとんど変わらない。
いや、下手なラーメン屋だったら、この即席麺のほうが上をいっているだろう。

メーカーは日清。
日清といえば、10年近く前に発売された「ラ王」でも業界に衝撃を与えたようだけど、でもぼくは「ラ王」の味が好きになれなかった。
「本物」のラーメンに一生懸命似せてはいるが、しょせん「にせもの」という気配がどことなくあった。
なぜ、そう感じるのか?
生麺だからだ。
生麺を、のびていない状態のまま長期保存できるように開発し、それをインスタント仕様にしたのが「ラ王」だ。
画期的な開発だったし、出来上がったものは「お見事」であった。

だが、ちょっと考えてみよう。
生麺を使っている時点でもはやインスタントラーメンとはいえないんじゃないのか?
もともと「本物」である麺にチョコザイな工夫をこらしただけ。そこには「ごまかし」の美学があるだけで、インスタント食品をいかに本物に近づけるか、という「ロマン」がない。
そのうえ、「チョコザイな工夫」のおかげで確実に味を落としている。いくらがんばっても「本物」には追いつかない。似せてはいるが、しょせん「にせもの」である。

しかし「麺職人」はあくまで乾麺で勝負した。
乾麺こそインスタントラーメンの伝統であり、王道だ(多分)。
乾麺という大きなハンデの中で、どれだけ優れた味、コシを出せるかに、あくなき挑戦がある。そこに「求道」のロマンがある。
「麺職人」はあくまでその道にこだわって、そして頂点に達した。だから「本物」に触れた感動があった。

「ラ王」との違いはそこなのだ。
「にせもの」はどこまで極めても「にせもの」でしかない。
「にせもの」をできるだけ「本物」に近づけようとするのは贋作師の仕事だ。
王道を突き詰め、「本物」を極めていく「職人」の仕事とは本質的に異なる。
職人の仕事による「本物」にこそ、本当の感動と満足感が生まれる。

そこまで考えたところで改めて商品名に意識が向かった。
「麺職人」――なるほど、適切なネーミングだ。


| グルメ |
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「本気で仕事する24人」にぼくが入っています(笑)。デカイこと言っています。
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