石田ゆうすけのエッセイ蔵

旅作家&エッセイスト、石田ゆうすけのブログです。


※親サイトの『7年半ぶっ通しチャリ世界一周』はパソコンを新しくしたためにストップしたままです。
近況報告や各種案内は、もうしばらく、当ブログにて行います。
『ニューシネマパラダイス』
好きな映画のひとつに「ニューシネマパラダイス」がある。
ある意味「甘い」映画かもしれない。でも好きなものは好きなのだからしかたがない。
先日、テレビのチャンネルをまわしているとこの映画をやっていた。
夜中の3時をまわっていたが、最後まで観ないわけにはいかなかった。

ある台詞が流れたとき、ハッとした。
田舎に帰ったトトが母(あれ?元恋人のエレナだっけか?)に話す台詞である。
「30年ぶりに帰ってきたけど、村は何も変わっていなかった、まるで昨日までこの村にいたみたいだ」

映し出されている村は、30年前と比べてすっかり様変わりしていた。
昔のものはくたびれ、新しいものが増え、それらを感心した様子で眺めるトトが描かれている。
にもかかわらず、このトトの台詞である。

チャリ世界一周に出る前に、この映画をぼくは5回観ている。
しかし、この台詞を特に印象的だと感じたことはなかった。
なのに今回、なぜハッとしたか。
旅を終えて7年半ぶりに帰国したとき、ぼくもまったく同じことを思ったからだ。
日本に着いた瞬間、旅の日々がすべて遠くへと追いやられ、それらがまるで夢だったかのように感じられた。そして、自分が昨日まで日本にいたような錯覚に陥ったのである。

観るタイミングによって心に響くシーンが違う。
いい映画の条件じゃないだろうか。


| 映画 |
『再会珍事件』
ロンドンを出る3日前のことだ。
人通りの多い通りを歩いていると、前方からやってくる一人の男と目が合った。肩まである栗色の長髪、青い目。年は自分と同じくらいか。
その彼が「ハイ、ユースケ!」と叫んだので驚いた。

彼は満面に笑みを浮かべて右手を差し出してきた。つられてぼくも右手を出した。ガッチリ握手。
ぼくがきょとんとした顔のままでいたので、向こうが「It's Kevin(ほら、ケビンだよ)」と名乗った。
ぼくは「おお、ケビン!」と言って相手の肩を叩いた。
ケビンはその端正な顔をさらに崩して、饒舌にしゃべり始めた。
「ユースケ、いつからロンドンにいるんだ? また戻ってきたのか?」
「いや、ちがう、今回はたまたま講師で呼ばれてきたんだ、12日からいる」
「そうか、じゃあ、もう旅を終えたんだな」
「ああ、ちょうど一年前だ」
「今は何をしているんだ?」
「だから講演をしに来たのさ」
「いや、そうじゃなくて、日本でさ、何をしている?」
「ああ、そういうことか。ものを書いているよ。10月に本が出た」
「そうなのか?おめでとう!英語でか?」
「いや、日本語だけだ」
「そうか、残念だな、英語版は出さないのか?」
「俺の英語力じゃ文章は書けないよ」
「そうかな、でも、そのうちきっと英訳されるさ」
「ああ、そうなればいいんだけどな」
「英訳本が出たら絶対買うぜ」
「ああ、頼むよ」
といった会話を続けながら、ひとつの疑問がぼくの脳の中でクルクルと激しくまわっていた。
――お前は誰なんだ、お前は誰なんだ、お前は誰なんだあああッ??――

確かに見覚えはあるのだが、いったい誰なのかまったく思い出せない。しかし彼は人ごみの中だったにもかかわらず、ぼくと一瞬目が合っただけですぐに「ユースケ」という名前を口から出すほどぼくのことを覚えていたのだ。

ぼくはあせった。調子よく会話を合わせながら目の前の男をじっと見つめ、彼とのエピソードを思い出そうと必死だった。今さら「ところで、君は誰だっけ?」などとはとても聞けない。

ケビンは上気した顔でしゃべり続けた。
「しかし、すごい偶然だな! ユースケ、会えて本当に嬉しかったよ!」
「ああ、俺もさ、世界は狭いな」
「じゃあ、またどこかで会おうぜ」
「ああ、それまで、元気でな」
そしてぼくたちは再び笑顔で握手を交わし、肩を叩き合って別れた。
一人になって歩き始めてからも、記憶の引き出しの中をかきわけかきわけ、彼との思い出をなんとか探し出そうとした。
だが、ついに見つからなかった。


ペルーで強盗に身ぐるみはがされた時、装備品の多くを現地調達でまかなった。鍋類は市場の中で最も安いものを買った。厚さ3mmぐらいの肉厚のアルミ鍋だが、手で簡単に曲げられるほど柔かい代物だった。
それでメシを炊くと、ごはんの上に灰色の幕がうっすらと張った。
アルミの成分は体には有害で、痴呆症を促進させる物質が含まれると聞く。
さすがに気になったが、まあいいか、とその鍋を1年以上使った。
それからどうも自分の記憶力がおかしくなってきたような気がする。

もちろんこれはケビンへの言い訳だ。
しかし今回のことで真剣にビビッている。
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「本気で仕事する24人」にぼくが入っています(笑)。デカイこと言っています。
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