「さつまりこ」を食べた瞬間、いろんな思いがフラッシュバックのように駆け巡り、ぼくの脳はシアトルまで飛んでいった。
カルビーのベストセラー商品「じゃがりこ」のさつまいも版だ。カリッというあの歯ごたえはそのままで、さつまいものホクホクした香りと自然な甘さを出すことに成功している。すごい。正直、「じゃがりこ」の歯ごたえ、略してジャガハゴが、甘い味に合うのかどうかいぶかしんでいた。ところがどうだ。この見事なマッチングは。しかもあっさりしているのに味に何層もの奥行きがある。ピキーンと稲妻のような直感が走り、原材料名を見てみると、やっぱりそうだった。「アミノ酸」、つまり化学調味料が入っていないのだ。カルビーすげぇ。ポテトチップスの「うすしお」や「のりしお」でもカルビーは脱化学調味料を実現しており、ぼくは「ふふーん」とアゴをなでていたのだが、ふむ、これについては後日、また語らせていただく。
それはともかく、さつまりこ。お、美しい語感だ。それはともかく、さつまりこ。
……いやいやほんまにそれはともかく。
カリッカリッという音と絶妙な味わいに身を震わせながら、ぼくはシアトルでの日々を思い浮かべていたのだ。
この春、シアトルのとある学校に講演に呼ばれ、ついでに友人の家に寄った。そのとき、手土産に、東京の空港でなぜか売られている京都の銘菓、「おたべ」、いわゆる生八橋を買っていった。彼らには斬新な味に違いないと。
3世代の友人の家族がぼくを迎えてくれた。内心ニヤニヤしながら彼らに「おたべ」を差し出すと、小さい子どもたちは異国のお菓子に躍起となってとびついた。ところが口に入れた瞬間、悲しげな表情になり、半分も食べないうちに箱に戻すではないか。大人たちも「うん、おいしい」と言いながら、あいまいな笑みを浮かべ、2つ目には手を伸ばさなかった。ニッキが原因ではない。あの香りは抵抗あるだろうと思い、ニッキなしの餡、メロン、イチゴ、という3種詰め合わせを買っていったのだから。
あのモチャッとした食感がダメだったのだろうか? よくはわからないが、とにかくミスチョイスだったことは明らかだった。もっとも、受け入れられなくても、未体験を経験してもらうことに意味はあったのだが、でもやっぱり「日本ってすげぇ!」と思ってもらいたい。
で、さつまりこを食べながら思ったのだ。
じゃがりこをシアトルに持っていけばよかったと(そのころさつまりこはまだ販売されていなかった)。
アメリカ人はこの手の歯ごたえが好きなはずだし、彼らのポテト好きは言うに及ばず。それに何より、このような食感のお菓子は未体験に違いない。驚愕し、感心するだろう。日本のテクノロジーの高さは車やゲームだけじゃないんだ、と。
ここまで書いて、ふと思った。
せっかく略語を作ったのに1度しか使わなかったじゃないか。ジャガハゴ〜。ぜんぜん語感がよくねえ!
※
さつまりこは来年1月までの限定販売らしいですよ。