石田ゆうすけのエッセイ蔵

旅作家&エッセイスト、石田ゆうすけのブログです。


※親サイトの『7年半ぶっ通しチャリ世界一周』はパソコンを新しくしたためにストップしたままです。
近況報告や各種案内は、もうしばらく、当ブログにて行います。
尻と電子レンジ
代々木公園に花見に行ったら見渡すかぎり人、人、人。トイレは惨状と化し、長蛇の列が外まで延々と続いていて、こらあかん、と森のほうに行ったらそこらじゅうでみんな立ちションをしている。罪の意識も薄れ、ぼくもその群れに加わった。
ふと横を見ると、20メートルぐらい離れたところに若い女性が立っている。
何気なく見ていると、その女性は意を決したように突然ズボンを下ろしてしゃがんだ。慌てて目を逸らしたが、白いお尻はしっかり見えてしまった。まわりの男たちもエッ?という顔をしていた。なぜそこまでして桜の下で酒を飲まなくてはいけないのか。嗚呼。

これが3年前のこと。それからというものメジャーな場所での花見には行かなくなったのだが、先日、半径400m以内に住む友人の2人、変態チャリ詩人のツヨシと、エリートなのにそうは見えない好漢テラマチくんに誘われ、近くの善福寺川緑地で花見をした。ここはとてもいい。小川に沿って続く桜のトンネルは長大・圧巻、かつ都心から15分ぐらいで来られる近さにもかかわらず人もたいして多くない。花見客のほとんどが地元民らしき人たちで、みんな静かに桜を愛でている。数年前にここの桜を見て、ぼくは初めて桜が好きになった。

ほかにリーくん、ユッキー、なっちゃん、という面々も加わり合計6人。雪のような桜の下で乾杯した。

で、今回あらためて思ったのだけど、花見にはやはり日本酒ですな。花びらを浮かべて飲んでみると、これがじつによろしい。ビールや焼酎じゃこの風情は出ないだろうし、ワインはまだ合いそうだけど、日本酒ほどはハマらないように思う。これは外国人が試してもそう感じるんじゃないだろうか。

さて、そうやって気分よく飲んでいたのだが、途中、ちょっとしたハプニングが起こった。ハムを焼いて食おうとしていたところへ見回りの人がやってきて、
「ここは火器の使用ダメなんですよ」
むむむ、残念。

そのあとリーくんがトイレに立った。しばらくしてリーくんは笑いながら帰ってきた。
「どうしたん?」
「あっちのほうにスゴイ人がいたよ。発電機と電子レンジを持ち込んでた」

そ、そこまでして……。
一瞬、暗がりに浮かぶ白い尻が脳裏に浮かんだのだった。



| 生活 |
おれはあまいかすっぱいか。
人体的にエグイ話が苦手な人は読まないほうがいいと思います……。


晩メシのおかずにジャガイモ入り豚角を作った。またかよ! と思われた方、いつもご愛読ありがとうございます。ぼくは「豚角友の会」の会員なんです。って、こういうの、ミクシィとやらにはホンマにありそうですね……。

閑話休題。今日の豚角はちょっと違う。宮崎の取材旅行中、居酒屋のオヤジからレシピを聞いたのだ。
ところでそのオヤジはえらい気さくな人で、ほかに客がいるのに仕事をほっぽり出してカウンターのぼくの隣に座った。そしてぼくと2人で焼酎を1本半飲んだ。オヤジのおごりで。さらにオヤジは「宮崎の焼酎を送るよー」と赤ら顔で言った。ぼくは話半分で聞いていたのだが、先日、本当に芋焼酎が送られてきた。1.8リットルの紙パックがなんと3本も。

ということで、オヤジに聞いたレシピに沿って、送ってもらった芋焼酎を水の代わりにどばどば鍋に入れ、それで豚角を煮た。そこに沖縄産の黒砂糖を入れ、あとはしょうゆ。ニンニクは入れない。ショウガは入れる。そうして2時間ほど煮込んだあと、ここからはぼくのオリジナルアイデアだが、鍋ごと新聞紙でくるみ、それを畳んだ布団の中にずぼっと挿入。それから原稿を書きに外のオフィスへ。

8時間後、帰宅して、布団から鍋を取り出すと、まだホッカホカだ。すばらしい保温庫である。肉もとろけるように柔らかくなっている。

それから最後、ひと煮立ちさせるときに、これもぼくのオリジナルだけど、長ネギを5センチ程度に切って入れることに。ただ面倒だったので、まな板を使わず空中で切ることにした。鍋の上で長ネギの端を持ち、包丁をスッと振り下ろす。スパン、とほとんど手応えもなくネギは切れ、鍋に落ちる。ぷはは、ほれぼれするような切れ味。包丁はいつもこまめに研いでいるのだ。

アチョ、アチョ、アチョ! と調子にのって切っていくと、あれ? そういやサッカーのバーレーン戦は今日だったっけ? とその瞬間、
「パスン」
ネギを持っている左手の中指に何か鋭い衝撃が走り、思わず包丁を投げた。包丁は流しにガラガッシャン。
「…………」
あは。あははは。やっちまった。このアホ、やっちまった。 
指先から痛烈な痛みが湧き上がってきたが、そこがどうなっているのか見る勇気が出なかった。もしかして、なかったら……。ちらり、と見ると、中指はきちんとあったが、その先からぶわわわわわと真っ赤なものがほとばしっている。あはははは。

よく見ると、そこまで深く切ったわけではなかったが、でも中指の先は、本来のカーブを描いておらず、ピョコッとへこんでいる。包丁を見ると、厚さ1ミリぐらいの白い肉片がついていた。
傷口を洗って、指の第一関節のところを縛った。血はティッシュを5、6枚消費したあと、ようやく止まった。

さて、ここで問題なのは、包丁に残った肉片だ。
測ってみると、長さ8ミリ、横4ミリ、厚さ1ミリ。焼いて食うべきかどうか……。迷った末に、冷蔵庫の外側の壁にペタと貼りつけた。干し肉にすれば保存がきく。人肉ジャーキーを食べたい方はご応募ください。抽選で1名の方に……。



| 生活 |
宮崎居酒屋の熱いトーク
今回の宮崎取材。
着いたその夜、地鶏を食べに居酒屋に入ったら、隣にいる20代中盤ぐらいの男性2人からこんな会話が。

「おれ、この前、通販でSMセット買うてん」
「マジ? どんなん?」
「手錠と、首輪と、目隠しと……」
「わはは、マジ? で、どうやった?」
「おもろいのは最初だけやな」

いやあ、粋ですなあ。
このあと、話はさらにエスカレートしていくのだけど、これ以上はとても書けません(上の話も『サイクルスポーツ』には書けないかな……)。

ま、しょっぱなからこうだったので、今回はおもしろい出会いがたくさんありました。
なかでも深く心に残ったのはこの看板。



字の弱々しさがなんとも……。



| 生活 |
わがアパートがおかしなことに
宮崎から帰ってくると、わが部屋の布団がいつもと違う具合にたたまれていた。
隣のMくんを訪ねると、外国人がふたりいる。空いたビールが数本。Mくんは赤ら顔だ。そのMくんいわく、「昨日は石田さんの部屋でぼくとアレックスとヘンリーが寝ました」
なんじゃそりゃ。

そもそもの始まりは去年の秋。ひょんなことから、ティルというおかしなドイツ人と知り合った。ティルは自主映画を作っている男で、同業者のMくんを交えてわがアパートで飲んだ。ティルはMくんの映画をドイツに持って帰り、日本語訳をつけて彼らが主催する映画祭で上映したという。
その後、ティルとMくんはメールでやりとりしていたのだが、今月のはじめに再びティルが来日した。日本で働く外国人労働者のドキュメントを撮るという。で、Mくんはその撮影に協力し、そのあいだ、ティルともうひとりのスタッフを自分の部屋に泊めることにしたのだそうだ。じつに3週間も。うーん、Mくん、君ってヤツはほんとに!

ぼくは今回の宮崎取材で部屋を5日留守にするので、「好きに使って」と鍵をMくんに渡した。そしたらおととい、ティルの友だちが5人やってきたらしい。で、4人がMくんの部屋に、Mくんを含めた3人がぼくの部屋に寝たという。うーん、こういうメチャクチャさ加減が大好きだ。


というわけで、オチを考えないまま書き始めた当然の報い、どうもうまくしまらないのですが、たったいま、前の通りで「ゆうやけ市」が始まったみたいなので行ってきます。いい祭りなんですよねえ。阿佐ヶ谷の松山通りで年4回やっています。夕方になると何かを焼いたり煮たりする煙が通りの両側からもくもく上がり、そのなかを人がごった返していて、なんかインドを連想して、ああ、もうこの町最高!といつも嬉しくなります。じつは宮崎の取材もこの「ゆうやけ市」のためにちょっと早めに切り上げたのでした(笑)。


| 生活 |
青春の猛ダッシュ&お知らせ
この世でいちばん苦手なものが計画と管理だ。これだけが評価なら自分はサルだ。自分で自分にマジでキレる。破壊衝動すら覚える。

というわけで、今日は「確定申告」「免許の更新」「原稿2本提出」、という3つが重なった。原稿はともかく、確定申告は1か月前から、免許更新は2か月前から済ませることができたのである。なのに期日が来るまでやる気が起きない。だから毎年、締め切り前の数分間に大パニックになっている。本当にアホとしか思えない。

今日は先に確定申告を終え、そのあと新宿都庁の免許センターに行った。受け付け締め切りは夕方の4時。それを電話で確認したあと、「まだ10分は余裕あるな」とクリーニング店に服を取りに行った。このへんが本当に愚かなのだ。結果、新宿駅に着いたのが3時50分。都庁に向かって「歩く歩道」を猛ダッシュ。「すみません!すみません!」とハリウッド映画ばりに人をよけながら。着いたときは汗がダラダラ流れ、また今日はなんだかやけに湿気があって、手続きしながらも汗がまったく止まらず、申請書にボタボタ汗を落とし、とうとう写真撮影ではカメラマンのおっさんから「ちょっと汗吹こうか」

ようやくすべてを終えたところで、『ミッドナイトエキスプレス』のラストシーンのような開放感に浸り、都庁の展望台に上った。で、東京の大パノラマをボケーッと眺めていると、「あのビルの屋上にあるのはなんぞ?」と、おばあちゃんから他人の壁がまったくナシな感じで話しかけられ、「温室ですかねえ」「太陽電池じゃないかぇ? しかしアレだね。人間の住むところじゃないね。歌も出ないね」「あはははははは」などといった会話を30分ぐらいしたあと帰った。

で、明日はさらに遠くへ。取材で宮崎に行ってきます。地鶏食うぞ。

で、お知らせです。
4月27日、19時から21時まで、東京深川の江戸資料館小劇場で講演します。この劇場、「江戸の芝居小屋」の雰囲気なんだとか。
また日中(12時〜16時)はその近所の白河・三好三丁目路上にて、メーカー協賛のおもしろ自転車試乗会も開かれます。

詳細はこちら

以下、主催者からの告知文を添付します。


『深川資料館通り商店街 深川いっぷく企画』 
おもしろ自転車試乗会&石田ゆうすけ講演会「7年半!自転車地球一周〜世界の街角から」

●「深川には、自転車散歩がよく似合う」をテーマに、当日は、「第2回深川おもしろ自転車試乗会」が12時〜16時に資料館並びの白河・三好三丁目路上にて開催されます。小径車、タンデムなどメーカー協賛によりおもしろい自転車乗り放題!!(無料) ご参加お待ちしています!

●また夜は石田ゆうすけさんに自転車の魅力、出会いや世界の街などについてスライド上映をしながら楽しくお話しいただきます。
(入場料:大人1200円/学割:1000円/小学生以下:500円)
定員:200名/要予約
申込:以下メールアドレスにお名前、連絡先、人数(学割/小学生以下の方はその旨必ずご記入下さい)を明記の上、お申し込み下さい。折り返しご連絡させていただきます。
ishidatalk@yahoo.co.jp

| 生活 |
トーストとスパゲティ
新宿は伊勢丹の向かいに交番がある。その前で待ち合わせをした。午後7時。人の波をかきわけかきわけ泳いでいくと、波にもまれることなく凄まじいオーラを放っている男がひとり。ドシッとガニ股仁王立ち。背中にはなぜか巨大なバックパック。こげたパンのように真っ黒な顔に、腰まで伸びた散切りヘア。自然栽培のヒゲはまるでどこかの教祖様。その男の半径2メートルは真空地帯になって、音もかき消されている。その男の印象をひと言で形容しよう。「汚い」である。比喩も使ってみよう。ルンペンだ。いや、あまり比喩になっていないな。ほぼ本物だから。
パキスタンで別れて以来、6年半ぶりに会うキヨタくんである。

会った瞬間、「よお」でも「久しぶり」でも「こんばんは」でもなかった。ぼくは感極まって何も言えず……大爆笑した。10秒ぐらい笑ったあと「なんやお前はあ! 汚すぎや! 職質されたやろ!」
なにせ交番の前である。キヨタくんも笑っている。ぼくも笑いながらさらに、
「なんなん、そのでかいバックパック? 何リットルあんの?」
「100リットル」
「なんでそんなん背負ってんねん? 山登りしてきたん?」
「いや、温泉に行ってきただけなんだけど」
ほかに手ごろなバッグを持っていないらしい。だからどこに行くのも100リットルのバックパック。……それ、たぶん普通は「手ごろ」じゃないと思う。

キヨタくんは帰国してからというもの、「赤岳鉱泉」の山小屋で働いている。そこで5年か6年の歳月が流れ、いまでは山小屋の支配人。単にそこで一番長いから、というだけではないと思う。たぶん。

新宿の路上でお互いハイテンションでしゃべりはじめ、あ、こりゃ通行人に迷惑だ。ってんで、三丁目の餃子屋へ。共通の恩人も呼んで3人でメシを食べ、そのあとキヨタくんと2人でわが町阿佐ヶ谷へ。駅を降りると、近所に住む変態チャリ詩人、ツヨシを電撃訪問した。ツヨシもキヨタくんとトルコで会っているらしい。世界はげにせまい。
ノックすると、ツヨシが眠そうな顔で出てきた。
「突然ごめんごめん」
「ああ、ゆうさんか」
「じつは特別ゲストを連れてきた」
と、ここでドアの背後からキヨタくん登場。ツヨシは頭を下げて言った。
「こんばんは」
「…………」
「……まだわからんか?」
「え? あっ、キヨタさん?」
「ぶははははははっ!」
「ネパール人かと思いましたよ」

ツヨシの部屋は壁が薄い。しかも隣は年配の女性。ツヨシは「静かに」と注意するものの、キヨタくんの小声は10秒ももたない。すぐにヒートアップして、声がでかくなる。さすが永遠の少年。カナダで最初に会ったとき、4時間ぶっ通しで自己紹介をしたのは伊達じゃない。

なんとか隣人から注意される前にツヨシの部屋を辞し、わが部屋へ。その時点ですでに夜中の2時。でもそんなの知らねえって感じでキヨタくんの声のでかさは相変わらず。まあ、ぼくも同じだったかもしれないけれど。

布団を敷いて電気を消してから、暗闇の中、再びしゃべり始めた。とたんに不思議な気分に包まれた。旅の途中にいるみたいな空気。
「なんか、懐かしいな」
「ああ、ほんと」
結局それからも延々としゃべり続け、寝たのは明け方の4時だか5時だか。チリで再会したときと同じだ。

で、翌朝。二宮金次郎ゆうすけは7時に起きて原稿執筆(涙)。キヨタくんはぼくの寝袋の中ですやすや眠っている。ていうか、100リットルのバックパック持ってくるなら、自分の寝袋も持ってこいよ!

ま、そんな感じで、ほんと、旅で再会したときと同じ雰囲気。キヨタくんは1ミリも変わっていなかった。
と思っていたのだけど、いやいや、やはりしっかり年月は経っていたのだ。彼もすっかり大人になっていた。
それがわかったのは、彼が起きてきて、朝飯を食べる段になってから。
「キヨタくん、チーズトーストとふつうのトースト、どっちがいい?」
「あ、じゃあ普通のトーストで」
「!!!!……予想外の返事」
「なにが?」
「絶対チーズトーストって言うと思った。あの食い意地はどこ行ったんや?」
「ああ、いまはあまり食べなくなったよ」

パタゴニアの森の中で、料理長のぼくが作ったミートソーススパゲティをとりわけながら「そっちのほうが多い」「それは入れすぎやろ」と互いに不平を訴え、マジゲンカになりかけたあの頃は、やはりまぶしい青春の真っ只中だったのだ。
(スパゲティをぴったり半分にわけるのは、ごはんと違って至難のわざなのだ)



| 生活 |
ハイテンションな第一声
電話をとったときの相手の第一声。
まあ普通は「もしもし」だ。
友だちも「もしもし」
セールスマンも「もしもし」
警察も「もしもし」
あるいは、「OOと申しますが」と自分の名前をなのる場合もあるか。

でも腹になにか一物ある場合、第一声はおそらくそれらとは違うものになる。
たとえばぼくがよくやるのは
「ハロー」
「警察ですが」
「国税局ですが」
「(いきなり)俺や! わからんのか? 寂しいなあ」

いずれにしろ、第一声で「もしもし」や自分の名前以外を言うときは何か策略が働いていることが多いように思う。そして、そういうのが相手から来ると、ぼくはけっこうワクワクする。
で、先日、その最上級が来た。
家の電話が鳴り、受話器を取ると耳をつんざくような大声。
「久しぶり!」
相手のテンションに釣られ、ぼくも思わず声がでかくなった。
「誰やお前はあ!」
相手は意味深げにケラケラ笑ったあと、答えた。

「キヨタです」
「おおおお〜っ!」

世界旅行で会ったキヨタくんだ。
彼もまた7年かけて自転車で世界一周をしたのだが、ぼくとは奇妙なくされ縁で、旅前半のカナダから、その6年後のパキスタンまで、旅を通して7回か8回ほど各地で再会している。ちなみに拙著『行かずに死ねるか!』では「怪人キノコ頭」といった感じで紹介させてもらった。彼には無断で。

キヨタくんは帰国してからずっと信州の山小屋で働いている。年賀状のやりとりはしていたが、まだ日本で会ったことはなかった。

そのキヨタくんからいきなりの電話。
東京に行くから会おうぜ、という。
おお、会おう会おう。メシ食おうぜ。
どうせなら日本でもバッタリ会いたかったけどなあ。
そうだよなあ。

そんなやりとりをして、明日会うことになった。
数えてみると、7年ぶり。
うへえ。




| 生活 |
仕事の空間
ちょっと前からオフィスを借りて仕事している
自分の部屋がちょっと手狭になったからだ。それに、やはりプライベートと仕事はわけたほうが効率が上がる。

そのオフィスはわがアパートから歩いて5分と立地もいい。
日当たりも悪くない。
ちなみにそのオフィスには名前がある。
オフィス「モスバーガー」という。

さて先日。
オフィスで原稿を書いていると、隣に若い男が座った。
妙なオーラを発する男だった。
何かに追われているようにせかせかと動く。
変な人かな、と思ったが、間もなくそのイメージは変わった。男は席に座るやいなやカバンから本を5冊も6冊も出してきて、ドン! とテーブルに置いたのだ。よく見えなかったが、哲学書か論文のような本ばかりだ。「生きている時間の1分1秒も無駄にできない!」とでも言いたげな、男の凄まじい勢いを見ていると、このオフィスにいるあいだにこれらの本を全部読んでしまいそうな感じさえした。顔をチラ、と見ると、その怜悧な目とすっと通った鼻梁に「東大生」という三文字が浮き出ていた。俺もがんばらねば、と思った。再び原稿に目を戻した。

サラサラサラ……。
隣から妙な音が聞こえてきた。そっちを見ると、男はテーブルの上で、スケッチブックのようなものに鉛筆をサラサラと走らせている。積み上げた本はそのままで。

スケッチブックを見ると、わけのわからない線が縦横無尽にのたくっていた。芸術は爆発だ、的な。
なるほど。才人はブンガクもすればアートもするのか……。

男は一心不乱に鉛筆を走らせている。夜の首都高速をぶっとばす一匹狼のように。アクセル全開ファインオッケー。アスファルトは獣の背のように波打ち、うなりを上げて迫りくる。タイヤとの摩擦音が悲鳴に変わる寸前、男はようやく鉛筆を止め、息をつき、コーヒーを飲んだ。終わった。何もかも……。スケッチブックは非凡なラインで埋めつくされていた。

しかし男に充足はなかった。スケッチブックの新しいページをめくる。再びシフトレバーを入れ、アクセルを踏み込む。火花を上げて走り出す。

結局、男は2時間以上それを続けたあと、急にスケッチブックを閉じて出ていった。
積み上げられていた本は一度も開かれなかった。

晩飯の時間になったので、ぼくもそのあとオフィスを出た。
頬をなでる風に潤いを感じ、もう春だな、とつぶやいた。
春は、いろんな人がいる。




| 生活 |
錆びていないアンテナ
海外で野宿ばかりしていたせいか、危険予知アンテナが野生のシマウマ並になった。と思う。眠りは深いほうだが、ちょっとしたことでパッと目が覚める。
でもさすがに日本に帰ってきて、現代人並に鈍感になった。と思っていたら。

昨日、夜中にふっと目が覚めた。
胸騒ぎ。何かが来る気配。物音ひとつしない闇。

と、突然、ぐらぐらぐら〜。地震だ! かなりでかい!(俺はナマズか!)
瞬時に飛び起きて、ガスの元栓を締め、防災バッグを背負い、財布をポケットに入れた。
という行動をとっていたら、地震が起こる前に目が覚めたことにも意味があったわけだが、実際は布団に横になったまま、大地のシェイクに身をまかせ、揺られていた。ああ、なんて無駄なアンテナ……。
(そもそも防災バッグを用意していない。しといたほうがいいのだろうな)




| 生活 |
ここに来て視聴率が!
NHKの朝の連続テレビ小説『ちりとてちん』が視聴率アップ!
関東・関西で20%越え!
というニュースを読んで嬉しくなった(ちょっと前の記事だけど)。

ずいぶん前に「視聴率低迷」と報じられていて、かなり解せない思いを抱えていたのだ。なんでこれがウケへんねん、と。
でもどうやらじわじわ認められてきたらしい。
ついでにほかのニュースも読んでみると、「NHKの朝ドラ最高の出来!」という声もあるそうな。他を見ていないから比べられないけど、なんかわかる。
その『ちりとてちん』も今月末で終わり。ああ、さびし。

げっ。オチがない。
| 生活 |
★新刊が発売されました
『自転車お宝ラーメン紀行』 レトロな路地や古い喫茶店など都内の“お宝”を探索しつつ、昔ながらのラーメンを目指す大冒険(?)紀行です。産業編集センター刊。1100円+税。感想お待ちしています!→yusukeishida@hotmail.com
★dancyuウェブに連載中
食の雑誌「dancyu」のウェブサイトに「世界の〇〇〜記憶に残る異国の一皿〜」というアホな記事を書いています。→https://dancyu.jp/series/ikokunohitosara/index.html
CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< March 2008 >>
LINKS
PROFILE
RECOMMEND
行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅 (幻冬舎文庫)
行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅 (幻冬舎文庫) (JUGEMレビュー »)
石田 ゆうすけ
7年走って見つけた世界一の宝とは?
RECOMMEND
RECOMMEND
洗面器でヤギごはん (幻冬舎文庫)
洗面器でヤギごはん (幻冬舎文庫) (JUGEMレビュー »)
石田 ゆうすけ
食べ物ストーリーでつづる世界一周紀行
RECOMMEND
道の先まで行ってやれ! 自転車で、飲んで笑って、涙する旅 (幻冬舎文庫)
道の先まで行ってやれ! 自転車で、飲んで笑って、涙する旅 (幻冬舎文庫) (JUGEMレビュー »)
石田 ゆうすけ
ニッポン飲み食いハチャメチャ自転車紀行。文庫改訂版
RECOMMEND
地図を破って行ってやれ!  自転車で、食って笑って、涙する旅
地図を破って行ってやれ! 自転車で、食って笑って、涙する旅 (JUGEMレビュー »)
石田 ゆうすけ
日本紀行第2弾。東京、茨城、滋賀、屋久島、種子島、土佐、北海道、熊本、三陸…
RECOMMEND
大事なことは自転車が教えてくれた: 旅、冒険、出会い、そしてハプニング!
大事なことは自転車が教えてくれた: 旅、冒険、出会い、そしてハプニング! (JUGEMレビュー »)
石田 ゆうすけ
旅のハプニングやノウハウをつづった実用エッセイ
RECOMMEND
台湾自転車気儘旅 世界一屋台メシのうまい国へ
台湾自転車気儘旅 世界一屋台メシのうまい国へ (JUGEMレビュー »)
石田ゆうすけ
台湾一の感動メシを探せ! 初のフォトエッセイ
RECOMMEND
道の先まで行ってやれ!―自転車で、飲んで笑って、涙する旅
道の先まで行ってやれ!―自転車で、飲んで笑って、涙する旅 (JUGEMレビュー »)
石田 ゆうすけ
ニッポン飲み食いハチャメチャ自転車紀行
RECOMMEND
「勝ち論」 本気で仕事する24人からのメッセージ
「勝ち論」 本気で仕事する24人からのメッセージ (JUGEMレビュー »)

「本気で仕事する24人」にぼくが入っています(笑)。デカイこと言っています。
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
モバイル
qrcode
SPONSORED LINKS