2008.07.31 Thursday
われら青春!
今日のオフィスは某マクドナルドだ。
ふだんはあまりマクドを使わない。味がどうこうではなく(オフィス使用なので、味は関係ない)、ガキっぽいBGMが賑やかに流れていて、原稿を書く身には迷惑千万、というところが多いからだ。
しかし、今日、出張先でたまたま入ったこの店、じゃなかった、このオフィスは朝からジャズが静かに流れていた。店長、じゃなくて、管理人、あんたはえらい。
しばらく集中して書いていると、目の前に大学生風のガキンチョが6人座った。ぼくは目を三角につりあげ、彼らに一瞥をくれた。騒ぐなよ、お前ら。ここはオフィスやぞ。
彼らは神妙な顔で静かに座っている。
ぼくは再びパソコン画面に視線を移した。
「みんなに集まってもらったんはな、ちょっと大事な話をしたいねん」
ひとりのリーダー風の男が言った。
ぼくの片方の耳がピクッと動いた。いやいや、無視だ無視。原稿原稿。
「この前、みんなで海に行こうってなったのに、あいつが行かんから俺も行かへんとかさ、急にキャンセルしたりとかさ。最近さ、みんなで遊びにいくことなくなってきたやん。そういうの友だちやってる意味ないやん」
両方の耳がピクピク動く。いかん、原稿や原稿。しかし朝のマクドで何を話しとんねん。
「俺ら、小さい学校でクラスひとつしかなかったやろ。だからさ、俺ら特別やん。俺はお前らとずっとつきあっていきたいし、だからさ、包み隠さずぜんぶ打ち明けようや。みんなお互いなんかしら言いたいことあるやろ」
どうやら、田舎の幼馴染同士らしい。大学進学などで都会に出てきたのだろう。言葉の感じから関西のほうだと思うが、「だからさ」とか、妙に関東が混じっている。って、俺めっちゃ聞いとるやん。アホか。原稿や。
別の男が言った。
「俺はみんなに不平とかないよ。何か意見違うことがあっても、それはそれで言い分があるわけやし、俺はふつうに受け入れてるわ」
「なるほどな、たしかにそういうの大事やよ。でもな、ある意味で、それはコウジの悪いとこやで。本気でぶつかろうとせんと、いつもその場を笑ってごまかそうとするやろ」
「……そうやな。たしかに、俺には、そういわれてもしょうがない部分はあるわ」
また別の男が言った。
「うん、俺もじつはときどきそう思ってた。でもな、コウジみたいなキャラが俺らには必要やで」
ぼくはキーボードをバシバシ叩いた。パソコン画面には、いつの間にか原稿ではなく、彼らの台詞が打ち込まれている。わ。何をしてんねん、俺は。
リーダーが再び語った。
「それはわかってる。でもそうじゃないねん。俺はたしかにうっとうしい思われてる思うよ。でもな、本当に友だち続けていくんやったら、腹のなか、全部見せ合わんとあかんと思うわ。遠慮したらあかん。みんなこっち来て忙しくなって、なかなかこんな風に会えんやん。だからいい機会やろ。じゃあ、俺から言うけど、おいヒロ、お前今日も遅刻したけどな、親しき仲にも礼儀ありちゃうか。仲いいから遅れてもいいというのはよくないで」
そう。ほんとにそう。君の言うとおり。ぼくも気をつけます。
こうして、結局、1時間近く仕事ができなかった。
彼らの姿を、すごいなー、熱いなー、と冷めた目で見ている自分がいた。
でも、中村雅俊の青春ドラマが好きだった自分は、彼らの関係をどこかうらやましくも感じていた。ぶん殴り合って抱き合って泣き合う、ひと昔前の熱い友情、いいやんいいやん、めっちゃいいやん。
しかし、やはり時代なのだ。
そういう熱い話をしているにもかかわらず、たびたび携帯電話が鳴り、話の途中で誰かが席を離れるのである。
そのたびに気勢をそがれるリーダーの表情が、少し切なかった。負けるなリーダー。
ふだんはあまりマクドを使わない。味がどうこうではなく(オフィス使用なので、味は関係ない)、ガキっぽいBGMが賑やかに流れていて、原稿を書く身には迷惑千万、というところが多いからだ。
しかし、今日、出張先でたまたま入ったこの店、じゃなかった、このオフィスは朝からジャズが静かに流れていた。店長、じゃなくて、管理人、あんたはえらい。
しばらく集中して書いていると、目の前に大学生風のガキンチョが6人座った。ぼくは目を三角につりあげ、彼らに一瞥をくれた。騒ぐなよ、お前ら。ここはオフィスやぞ。
彼らは神妙な顔で静かに座っている。
ぼくは再びパソコン画面に視線を移した。
「みんなに集まってもらったんはな、ちょっと大事な話をしたいねん」
ひとりのリーダー風の男が言った。
ぼくの片方の耳がピクッと動いた。いやいや、無視だ無視。原稿原稿。
「この前、みんなで海に行こうってなったのに、あいつが行かんから俺も行かへんとかさ、急にキャンセルしたりとかさ。最近さ、みんなで遊びにいくことなくなってきたやん。そういうの友だちやってる意味ないやん」
両方の耳がピクピク動く。いかん、原稿や原稿。しかし朝のマクドで何を話しとんねん。
「俺ら、小さい学校でクラスひとつしかなかったやろ。だからさ、俺ら特別やん。俺はお前らとずっとつきあっていきたいし、だからさ、包み隠さずぜんぶ打ち明けようや。みんなお互いなんかしら言いたいことあるやろ」
どうやら、田舎の幼馴染同士らしい。大学進学などで都会に出てきたのだろう。言葉の感じから関西のほうだと思うが、「だからさ」とか、妙に関東が混じっている。って、俺めっちゃ聞いとるやん。アホか。原稿や。
別の男が言った。
「俺はみんなに不平とかないよ。何か意見違うことがあっても、それはそれで言い分があるわけやし、俺はふつうに受け入れてるわ」
「なるほどな、たしかにそういうの大事やよ。でもな、ある意味で、それはコウジの悪いとこやで。本気でぶつかろうとせんと、いつもその場を笑ってごまかそうとするやろ」
「……そうやな。たしかに、俺には、そういわれてもしょうがない部分はあるわ」
また別の男が言った。
「うん、俺もじつはときどきそう思ってた。でもな、コウジみたいなキャラが俺らには必要やで」
ぼくはキーボードをバシバシ叩いた。パソコン画面には、いつの間にか原稿ではなく、彼らの台詞が打ち込まれている。わ。何をしてんねん、俺は。
リーダーが再び語った。
「それはわかってる。でもそうじゃないねん。俺はたしかにうっとうしい思われてる思うよ。でもな、本当に友だち続けていくんやったら、腹のなか、全部見せ合わんとあかんと思うわ。遠慮したらあかん。みんなこっち来て忙しくなって、なかなかこんな風に会えんやん。だからいい機会やろ。じゃあ、俺から言うけど、おいヒロ、お前今日も遅刻したけどな、親しき仲にも礼儀ありちゃうか。仲いいから遅れてもいいというのはよくないで」
そう。ほんとにそう。君の言うとおり。ぼくも気をつけます。
こうして、結局、1時間近く仕事ができなかった。
彼らの姿を、すごいなー、熱いなー、と冷めた目で見ている自分がいた。
でも、中村雅俊の青春ドラマが好きだった自分は、彼らの関係をどこかうらやましくも感じていた。ぶん殴り合って抱き合って泣き合う、ひと昔前の熱い友情、いいやんいいやん、めっちゃいいやん。
しかし、やはり時代なのだ。
そういう熱い話をしているにもかかわらず、たびたび携帯電話が鳴り、話の途中で誰かが席を離れるのである。
そのたびに気勢をそがれるリーダーの表情が、少し切なかった。負けるなリーダー。