いかん。もう今年も終わる。
ということで、無理やり、持っていきます。
炎の無人島探険記 最終回!
タイムカプセルの手がかりは、「2またやし」だった。
しかし、島に来てみると、「2またやし」だらけだった。
16年という月日のあいだに、ひとつしかなかったはずの「2またやし」が、ずんずん増殖していたのだ。隊員たちは、無情な自然を前に、ある者は頭を抱え、ある者は大地を両手で叩いて嗚咽し、ある者は力なく笑った。
しかし、
例の地図を見よ。
長さが細かく書かれているではないか。
そこで、メジャーを使って、あちこちの「2またやし」と、まわりにあるヤシの位置関係をはかってみた。すると、地図に該当する「2またやし」は、ひとつにしぼられたのである。間違いない。タイムカプセルは、このヤシから、1.8メートルの場所だ。
しかし、初日の今日は、まだ、掘らない。
ボボ隊長は、みんなに宣言した。
「掘るのは明日や」
ボボには、みんなに内緒にしている、「秘密」があった。
三代目隊長、トミー平山に関しての、極秘任務である。
トミーは、約2ヶ月前に、飛行機の早割りチケットを買って、準備を万端に整えていた。しかし、直前にひどい風邪を引き、最後の最後まで悩んだ末に、出発の日に、《辞退します》というメールを隊員たちに送ってきた。彼の回復を祈っていた隊員たちの悲痛な叫びが、ブルラグ掲示板にこだました。
そして、探検の初日。
隊員たちが、バーベキューに興じている最中、ぼくは内緒でこそこそと、ちんこをいじるように、携帯を操作していた(この無人島は、なんと携帯が通じるのである)。
メールの相手は、トミーだった。彼は、こんなメールをよこしてきた。
《だいぶ回復してきました。なんとかなりそうです。明日、行きます》
いよいよアホである。
結婚前で金がないというから、早めに申し込んで、安いチケット(片道16000円)を買ったというのに、そのチケットを台無しにしたあげく、さらに連休の正規料金(片道36800円)でチケットを買って、やってくるというのである。残り、わずか1泊のキャンプのために。
トミーは、こう言うのだ。
《あと20年も、もんもんとするのは嫌ですから》
前に書いたとおり、ぼくたちは今回、16年前のタイムカプセルを掘り起こすと同時に、新しいタイムカプセルを埋めて、20年後に掘り返しにこよう、と言い合っていた。そのときまで、トミーは、我慢できない、というのである。
このような、トミーとのやりとりを、ボボは、みんなに内緒にしていた。トミーもボボも、最高のサプライズを演出したかったのだ。
そして、2日目。トミーが着くのは、夕方だ。そのときまで、ボボは、タイムカプセルを掘ろうと躍起になっている隊員たちを、抑えておく必要があった。せっかくトミーが来るというのに、彼を差し置いて、宝を掘るわけにはいかない。それが地中から引き上げられる瞬間の感動を、誰ひとり欠けることなく、みんなで味わいたいではないか。
しかし、無邪気な隊員たちは、朝飯の「絶品手作りハムサンド」を食べたあと、早くも朝っぱらから「じゃあ、掘りますか」などと言っている。
ボボは、腹の底で、苦虫をかみつぶしながら、初代隊長としての強権を発動した。
「まだや。まだ、機は熟していない」
隊員たちは、なんのこっちゃ? という顔をしている。
しかし、異を唱える者もなく、静かに、時は過ぎていった。
そして、昼過ぎになった。
大鍋でラーメンをつくり、みんなで顔を寄せ合うようにして食べ、ああ満腹。さあ、もう、あとは、あれでしょ。
「では、そろそろ、掘りますか」
隊員たちの顔は、みな一様に、やる気に満ちていた。彼らを、これ以上引き止めるのは、無理だ。ボボの口から、トミーの秘密が、いままさに吐き出されようとした。
「……腹いっぱいやから、ちょっと休憩しよ」
隊員たち、再び、なんのこっちゃ? である。
このときの、ボボの苦しい胸のうちを、想像してほしい。
想像しながら、つづく。
次回は、最終回、その2、です。
(下につづく)
*
*
*
『炎の無人島探険記、ほんとうの最終回』
「腹いっぱいやから、タイムカプセル掘るのは、あとや。あとにしよ」
ボボ隊長の、その言葉に、誰も納得していなかった。
「このヒゲオヤジ、どういうつもりだ」という不信の念が、隊員たちの顔にありありと見える。そりゃそうだ。すでに午後2時近く。早くしないと、日が暮れる。あとにまわす意味がわからない。
しかし、全員、釈然としないまま、焚き火の前に座り、所在なく、火をつついたりして、時間を過ごした。
30分ぐらいたっただろうか。
「こんちは」
隊員たちの背後、海のほうから、ぬっ、とトミーが現れた。
人は、予期せぬ出来事に鉢合わせすると、一瞬、感情も、表情も、失うらしい。……なぜ、海のほうから、人が現われるんだろう? この焚き火の前に、7人全員いるはずなのに、なぜ? 無人島のはずなのに、なぜ? もしかして、トミー? いや、そんなはずはない。トミーはいま、東京で寝込んでいるはずだ……。
「ええええええ〜っ!!」
火がついたようにみんな絶叫、島は大騒ぎとなった。すべての事情を把握し、みんなの反応をじっくり観察していた、ボボの、このときの楽しさといったら!
みんなさんざん大笑いしたあと、口々に言うのである。
「そういうことかあ! なんでタイムカプセル掘らんのか、まったくわけわからんかったんやあ!」
やんややんや。
こうして、全員顔を並べた、ブルラグ隊の勇者たちは、スコップを持って、くだんの「2またやし」の前にやってきた。固唾をのんで、大地を凝視する、8人。タイガージェット真隊員が、ダウジング棒を出してきた。ボボが、そんなもんいるか、と出発前に言っていたのに、タイガージェットは何を心配したのか、ほんとうにそれを作って持ってきていたのだ。それじゃ、まあ、せっかくだから、と、実験開始。
これが、バカ笑いだった。
ここだろう、と思える場所に来ると、ダウジング棒は、なんと、ほんとうに反応するのである。このとおり。
むにょ〜ん、と、ダウジング棒がゆっくり開く様子が、あまりにもバカっぽくて、ぼくたちは、文字通り腹を抱え、涙を浮かべて笑った。
しかし、ほんとうに、誰がやっても、その場所で開くのである。これはますます、間違いない。
ということで、掘り起こし、開始。
ここで活躍したのが、エンプティ三国隊員だった。
話は、ちょっと横道にそれるが、これまでの写真を見た読者の、数名の方から、「裸じゃないやん」というお叱りをいただいた。それについては、複雑な事情がある。
寒かったのだ。
以上。
いや、寒かったのはほんとうだが、しかし、ぼくたちは、やはりダメになっていたのだ。無邪気に、天真爛漫に、裸になれなかったのだ。そんなことしておもしろいの? という、大人のアンニュイに、骨が蝕まれていたのだ。
その倦怠を、吹き飛ばした男がいる。
エンプティだ。
彼はこのために、わざわざ「ブルラグふんどし」を作って持ってきており、寒イボが出るほど寒いのに、タイムカプセル掘りをしているあいだ(ほかの隊員が掘っているときも)、ずっとこの格好でいた。ボボには、エンプティの姿が、ご来光のように、まぶしく見えた。
さて、もう、書くのが疲れてきたので、さっさと終わろう。今年も、もう終わる。
結論。
ぼくたちは、仲間を「総括」して埋められそうなほどの、大穴を掘った。しかし、ぼくたちの青春を押し込めたタイムカプセルは、出てこなかった。トミーにも感動を分かち合わせよう、と、掘り起こし作業を必死で引き延ばしたというのに、トミーどころか、誰ひとり感動できなかった。ダウジング棒はやはりいい加減だった、ということだけが、わかった。
しかも雨がすごくなってきた。骨まで凍える冷たい雨だった。
それでも、ぼくたちは気を取り直し、新しいタイムカプセルに、じじいになった自分への手紙と、いろんな宝を、それぞれが入れ、そして、それを、さっき掘った大穴に埋めた。地図は描かなかった。なぜなら、16年前の地図が、そのまま使えるからだ。「2またやし」から1.8メートルのところに、それはきちんと埋められている。
翌朝、迎えに来た船に、ぼくたちはのった。布施博に似た、気のいい、40過ぎぐらいの船頭さんは、開口いちばん、
「見つかった?」
と聞いてきた。
「見つかりませんでした」
と答えると、船頭さんは、へっ? という顔をして、それから、笑った。
遠ざかっていくB島を見ながら、ぼくたちは隊歌をうたった。
C町の港に着くと、きれいな女性が、車のそばで、待っていた。どうやら、船頭さんの奥さんらしい。ぼくたちが荷物を降ろし終えると、船頭さんは、その車に乗り込み、そして窓を開け、
「じゃあ、また20年後に」
と言って、ははは、と笑い、去っていった。
雨は上がっていた。
ぼくたちも、それぞれの車に乗り、近くの温泉に行った。
そのあと、みんなで握手をして、別れた。
20年後。
あの船頭さんにも、すぐに会えそうな気がする。
完
追記
16年前のB島探検は、じつはビデオで記録されている。
副隊長のジェリーしげちゃんが、今回の探検のあと、そのビデオを見たらしい。すると、驚愕の事実が判明した。
地形が思いっきり変わっていたというのである。
大きな石がごろごろしていて、ここには、どうがんばってもテントは張れない、と思っていた場所に、16年前のぼくたちは、テントを張っていたらしい。タイムカプセルもその近くに埋めたのだ。地表の土が流されて、その下の石がむきだしになったのだろうか。しかし、それがどうしても想像できないくらいの変わりようだった。
いずれにしても、我々は今回、前の場所とはてんで違うところにテントを張ったわけで、同時に、タイムカプセルを目指して掘った場所も、まったく見当違いだったわけである。マントルまで掘っても、タイムカプセルは出てこなかっただろう。
ということで、待ってろよ、20年後。タイムカプセルを2つ、掘ってやる。
じじいになる楽しみも、作れるものである。
追記2
今回の探検行には、トミー隊員の結婚を祝う、という目的もあり、彼が遅れて到着したあと、用意されていたクラッカーが鳴らされたりもした。
で、昨日、関西支部のブルラグ隊(および、ほかの仲間たち)が、学生時代から懇意にしている居酒屋に集まって、あらためてトミー隊員の結婚を祝う会(および忘年会)を開いたらしい。その会で、こんなお祝いの品が、トミーに渡されたそうだ。
お手製の、ブルラグ黄金像である。
はい、これで、ほんとにおしまい。