このところ外出の機会が多く、そのたびにラーメン屋探訪をしている。
出かける前にパソコンのキーをカタカタと叩き、ネットでラーメン店のレビューをチェックする、などというチ○○スなことをやっている。
そんなふうにネットで、顔を見たこともない人たちの意見で店を決めるなんてバカバカしい、とぼくは新刊『道の先まで行ってやれ!』に書いたのだけど、まあ東京のラーメンは別扱い、ということで自分を許している。というか、本に書いたのは旅先で食べる食事のことであって、東京での食事はあてはまらないのだ。だからいいのだ。と、どうでもいい言い訳を書きつつ。
で、ネットで評価の高い店に、このところ立て続けに行っているのだが、「おおっ! これは!」と腹の底でうなりたくなるようなラーメンにはなかなか当たらない。逆に、「これのどこが?」 と首をかしげるような味ばかりだ。
行列のできる店などはまず間違いなくそのパターンで、みんな集団催眠にかかっているんじゃないかと思いたくなる。ま、前に行った中野の「青葉」のつけ麺は例外で、並ぶだけの価値は十分あると思ったが。
そんなわけで、ネットで調べるのもバカバカしくなったので昨日は何も見ずに東京駅方面に行った。で、有楽町で腹が減り、きょろきょろ探していると、あった。
こんな店。
典型的なザ・立ち食い。ザ・ガード下。ラーメンだけじゃなく、うどん、そば、カレー、とまあなんでもありな店。値段を見ると、ラーメンが390円。そのほか「すうどん」が260円。マイホームのローンできゅうきゅうしているサラリーマンのお父さんたちを支え続けてきた店だろう。
ラーメン屋はひたすらラーメンを追及してほしい、という思いから、こういう何でもありな店は避けるのだが、このときは古ぼけた店の外観を眺めながらこう考えた。
こういう店のラーメンも東京を知るうえでひとつの手がかりになるんじゃないだろうか……。
ということで、地下室のような暗い、汚い店内に入り、390円のラーメンを注文。あっという間に出てきたラーメンは澄んだしょうゆスープに黄色い縮れ細めん。ワカメに海苔に脂身だらけの豚バラチャーシュー、というじつに飾り気のない代物。何の期待もせずに食ってみると、
「…………」
能書きなどいらない。食え、という味。食ったらさっさと出ていけという味。芸術的にうまいかどうかは別にして、「おおっ! これは!」と腹の底でうなりたくなるラーメンだった。ヒリヒリと火傷しそうなクソ熱い鶏がらスープに喉越しのいいツルツルシコシコ麺。正直、これまで食べた700円や800円もするラーメンなんかよりはるかに感動的な味なのである(なんか「うまい」とは書く気にはならないのだけど)。
その夜、わがアパートで隣人の映画監督Mくんと本日のミーティング(たんなる飲み会)をした際、このラーメンの話をした。するとMくんからはこんな話を聞いた。
最近、わが町阿佐ヶ谷にこんな触れ込みのラーメン屋ができた。
「若乃花の料理を作っていたシェフがすべてを捨て、ラーメン屋に転身! ありったけの技術と情熱を注いだ究極のラーメンを食べてくれ!」
チラシにはいかにすごい素材を使ったラーメンなのかということが、今日のこのブログのようにダラダラ書かれていた。これはまずそうな店だな、と思いつつも、やはり気になる。Mくんはそこに食べにいったらしい。
その結果は。
「死ぬほどまずかったです」
能書きはいらん。さっさと食え。職人はやっぱりこうでなきゃ。