石田ゆうすけのエッセイ蔵

旅作家&エッセイスト、石田ゆうすけのブログです。


※親サイトの『7年半ぶっ通しチャリ世界一周』はパソコンを新しくしたためにストップしたままです。
近況報告や各種案内は、もうしばらく、当ブログにて行います。
矢野が好き

テンション下がりまくり……。
あんな負け方なんて……。
守護神、球児が村田に逆転3ラン。
阪神のマジック消滅。
矢野の引退試合を勝利で飾れず……。
矢野を慕っていた球児の胸中を思うと、つらい……。

どんよりした気持ちで、今から講演で新潟に向かいます。
もちろん講演は元気よくやりますけど。でも今は鉛でできた半纏をはおっているような気分です。

ともあれ、矢野選手。
これまで本当にありがとう。
勝ったときの弾ける笑顔がめちゃ好きでした。
巨人時代の上原浩治からも、オールスターでバッテリーを組んだ際にブログで「阪神で矢野さんがみんなに好かれる訳がわかった」と書かれたそうな。ウィキ博士より。

きのうの引退セレモニーを見ていたら、ちょっと泣いてもうたです。
神宮球場であなたに教えてもらったV字腹筋、今もきちんと続けています。
(教えてもらったといっても、厳密には見て盗んだという意味ですが)





| スポーツ |
旭川の寿司屋さん

旭川にいます。
思い出の町です。
自転車で日本をまわったとき、この町の公園に寝ました。すると40歳ぐらいのオジサンが声をかけてきて、家に泊めてくれました。オジサンは寿司職人で、通称こばちゃんで、「こばちゃん寿司」という店をきりもりしていました。
勧められるがまま、お宅に5日間お邪魔しました。夜は店の手伝いをしました。

その店を22年ぶりに訪ねたいと思ったのですが、なにせひとりでやっていた小さな店です。だから、どちらかというと、悲観的な思いで、電話ボックスに入り、タウンページの寿司屋の項を開きました。そして「か行」をずっとたどっていくと……
《こばちゃん寿司》
あった!
しかも、そこに書かれている住所を見ると、ぼくのいる電話ボックスからは目と鼻の先じゃないですか。次の瞬間には駆けていました。

間もなく薄暗いビルが現れ、そこには懐かしい看板が。ワクワクしながら地下に下りていくと、おかしくなるくらい、22年前とまったく変わらない、小柄で、かわいい顔をした、65歳になったこばちゃんがいました。

しばらく黙って突き出しのナスを食べていたのですが、「この店はどうやって聞いてきたの?」と聞かれたので、「じつは……」と切り出しました。

こばちゃんはぼくを覚えていませんでした。もしかしたらいろんな旅人を迎えているのかもしれません。「がんばっている人を見るとつい応援したくなっちゃうんだ」と口癖のように言う人ですから。

「タウンページで見つけたときは嬉しくなりました」
とぼくは正直に言いました。その言葉の意味するところをこばちゃんは感じ取ったようで、苦笑しながら、
「いろんな人に助けられているんだよ」
としみじみとした目で言いました。

たしかに、立地がいいとは思えないこの店につぎつぎに客がやってきます。こばちゃんの人柄によるところは大きいのでしょう。

腹は減っていなかったのですが、「1人前握るね」と言われたので、任せました。
出てきたのは、ウニ、イクラ、数の子、カニ、ホタテ、ホッキ貝、大きなエビ、マグロ、タイ……と完全に「上」の内容。
店にはメニューがありません。いかにも高そうな店です(昔店を手伝ったときの記憶はすっかり消えていました)。財布に万札が何枚あったかを頭のなかで数えました。
こばちゃんは握りのあと、さらにイクラやウニを小皿にどっさり盛って出してくれました。

そうして店を出る段になって、おそるおそる値段を聞くと、ビール2本、および突き出しも含めて、3000円。は?

あとから出してくれた小皿のウニやイクラはおまけだったようですが、あとはほぼ定価のままでした。ぼくのすぐあとに勘定をしてもらった2人組みも同じような値段だったので。
そういえば昔から学生さんもよく来ていました。そういう店なのです。

安い料金で出すなら、それを大々的に「売り」にするのが、いまの商売でしょう。
でも、そうじゃない商いの仕方もあるようです。

こばちゃんはぼくを覚えていませんでしたが、再会をとても喜んでくれ、「縁だねぇ」としみじみした口調で何度となく口にしていました。

その「縁」を信じ、自らアピールすることなく、人知れず安価な寿司を提供する。
30年続く、ビルの地下の小さな店です。

| |
野宿への書

かとうちあき著『野宿入門』を読みました。
発売は2010年10月1日。
え? なぜ発売前の本を読めたのかって?
なぜなら著者のかとうちあきは友人だからです。

ああ、なんという下衆な論法でしょうか。
ぼくという人間のいやらしさが全開です。

ま、それはともかく、このかとうちあきはかなり個性的な女性でして、野宿に並々ならぬ執着を持っています。まだ20代で、しかも見た目はかわいいというのに(あ、また悪質な論法を……)。

彼女はその趣味を己の中だけに抑えることができず(?)、『野宿野郎』というミニコミ誌を6年前に創刊。その異色さとおもしろさで、ミニコミ業界やアウトドア業界では知る人ぞ知る有名人となりました。ヤフーニュースなんかでも大きく取り上げられたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

そんな彼女がこのたび上梓したのが、『野宿入門』です。本人いわく、「いちおう野宿のノウハウ本」とのことですが、ノウハウというよりは、指南書、いやそれよりもエッセイです。読み物です。
ページを繰り出したらとまらなくなり、クスクス笑いながら、ときにゲラゲラ声を出して笑いながら、あっという間に読了。いやあ、彼女、やっぱりすごいセンスです。その一端をご紹介したく、彼女から許可を得て、ここに抜粋します。
野宿の際、トイレをどうするかについての記述から。



 公園にトイレがあったとしても油断は禁物です。都会のトイレは場所によって夜間施錠されてしまうこともあり、安心はできないからです。
 おしっこを我慢している人間にとって、一番ダメージが大きいのが、「もう我慢しなくていい!」と気が緩んだあと、なんらかの事情で一転、じつは「まだ我慢をしなければならなくなった」という事態になったときではないでしょうか。つまり「あると思ったところになかった」や「あったのに入れなかった」というのは、一番危険な状態なのです。
 よってトイレは「ほんとうにあるか」「夜間も使えるか」、必ず目で見てしっかりと確認することが大切だと言えるでしょう。「言ったはずだ。私は自分の目で見たものしか信じぬとな」は『機動戦士ガンダム00』でのセルゲイ中佐の台詞ですが、まさに「野宿中のトイレ」にも当てはまる名言なのです。



いまアマゾンを見たら、すでにレビューがありました。
もう出ているんですね……。
はは。




| - |
新刊発売記念トーク、その2のお知らせ

10月10日の新刊発売記念トーク、おかげさまで満員御礼となりました。
ありがとうございます。
本日以降のお申し込みはキャンセル待ちとなります。すみません。

かわりに、というわけではないのですが、10月22日(金)もトークイベントします。
こちらはお絵かき作家、とまこ女史とのコラボ。
彼女は今年の3月に『電車でぐるっとよくばり台湾』という本を出しまして、そのとき呼ばれてトークをご一緒したのですが、それにつづいてなんと先月も、彼女は『世界一周旅ごはん』という本を出しました。
世界中の料理を自宅で再現する、というコンセプトの本です。
簡単レシピ満載で、写真もすばらしい出来。とまこちゃんの旅への愛情がつまったエッセイとからんで、オシャレな本になっています。



んで、10月8日発売のぼくの新刊本『『台湾自転車気儘旅』は、いちおう自転車モノではありますが、どちらかというとB級グルメ紀行。メインテーマは「台湾一の感動メシ探し」。
というわけで、どちらの本も「メシ」&「旅」ということで、イベントのタイトルは、

「世界おいしいものサミット2010」

お、大きく出たな……。

ま、早い話、世界で食べてきたメシについてふたりで話し、何が一番の感動メシだったかを勝手に決めようという内容です。スライドなんかも織り交ぜながら。

■日時
2010年10月22日(金)
18:30 開場
19:00〜20:00 トーク
20:00〜 サイン会

■会場
ジュンク堂新宿店8階カフェ
東京都新宿区新宿3-29-1  新宿三越アルコット8F

■料金
1000円(ドリンクつき)

■定員40名
 
■予約
ジュンク堂新宿店7F案内カウンター、またはお電話(03-5363-1300)で。
お申し込み先着順。

です。

| 講演 |
あるアフリカの映画

『ベンダ・ビリリ!』というドキュメンタリー映画を観た。
舞台はアフリカのコンゴ。
ホームレスの障害者とストリートチルドレンから成るバンドが、あるフランス人映像作家に見出され、世界デビューして成功するまでの話だ。

観ていると、アフリカを旅していたときのことを思い出した。
ぼくは当時、ある白人としらばく行動をともにしていたのだが、ある町で、彼は現地の女性に気に入られ、恋人のような関係になった。
その町を出るとき、女性は泣いて懇願した。
「私をヨーロッパに連れていって。あなたを愛しているの」

映画の中のバンドのメンバーたちも、なんら悪びれることもなく、ヨーロッパに行きたい、そして成功したい、と語る。
当然である。でも、あまりにもその台詞が多すぎる。映画にのめりこんで観ていると、頻繁にその台詞が飛び出し、そのたびにさまざまな大人事情や、カメラのこちら側のことが頭にちらついて、現実に引き戻される。少し鼻白んだ気分になる。

ただ、アフリカにいたときは、上に書いた女性の涙の懇願に、ぼくはなんの抵抗感も抱かなかった。ごくごく自然な感覚だと思ったし、もっといえば、非常にピュアな愛の形だとさえ思えたのだ。
だから、もしかしたら、アフリカにいたときにこの映画を観ていたら、ぜんぜん違った感じ方をしたかもしれない。映画を観ながらそんなことをちょっと考えていた。


ところで、何よりも驚いたのは、かなりマイナーだと思われるこの映画に、しかも平日の昼間(金曜日に観てきました)だというのに、たくさんの人が観にきていたこと。
さすが東京だな、と感心してしまった。


ここから映画の予告編が観られます。
ちょっと鳥肌です。

こちら

タイトル右横の「予告編」をクリックしてください。
ちなみにこの映画、東京渋谷のシアターイメージフォーラムで今月26日までです。


| 映画 |
チェーン居酒屋の効用

久しぶりに「和民」で飲んだ。
食通ぶって、最近は個人経営の店しか行かなくなったのだが、意外や意外、チェーン居酒屋も悪くない。
何がって、きのうは終電を過ぎて朝の5時まで飲み続け、最後のほうはメンバー10人のうち7、8人が座敷に横になり、爆睡、という合宿のような状態になったのだが、店の人たちからは完全放置。マニュアル化されたアルバイトの店員たちは、決められた動きだけをするので、酔って寝ているトドたちを起こして追い出す、ということはしないのである。
ありがとう、和民。
これからはチェーン店だからと毛嫌いすることなく使わせてもらいます。
終電に乗り遅れたら。

ちなみに映画関係の人たちとの飲みでした。
映画監督の元隣人Mくんづてに知り合った人たち。そのうちのひとり、Jくんはアメリカで3年間芝居を勉強をして、帰国。昨日はそれのお帰り会。Jくんは見違えるほど大人になっていました。朝の5時、店が終わったというのに、トイレに閉じこもって吐くぐらいに。

あ、Mくんのところ、「元」隣人となっていますが、このことについてはまた後日。
(書こうと思いつつ、すでに半年が過ぎてしまったのだけど)

| 生活 |
小さい肛門の話

ケツの穴の小さい話を。

プロ野球のペナントレースも残すところあとわずか。
わが阪神も優勝圏内なので、ちょっと目が離せない。
といっても、ほんと、最近はテレビ中継をしてくれないから、インターネットの「一球速報」で観戦している。
んで、いつもは球場やスコアボードが図になった画面で見ているのだが、さっきたまたま「テキスト速報」というのを見てみた。
すると、こんなふうに戦況が描かれているのである。

1回、巨人の攻撃。2アウト、1、2塁。
阿部、一打先制の場面で見逃し三振! 決定機を逃す。3アウトチェンジ。

1回、阪神の攻撃。2アウト、2塁。
新井、一打先制の場面でサードゴロ。3アウトチェンジ。

3回、巨人の攻撃。2アウト、2塁。
小笠原、一打先制の場面で外角のフォークボールに空振り三振! 決定機を逃す。3アウトチェンジ。
 
なんだこの温度差は……。
わが阪神も「決定機を逃す」なのに……。びっくりマークもないし……。
ライターさんは戦況を追いながら、猛スピードで文字を打っているにちがいない。
だから、つい感情がこもるのだろう。
その様子を想像すると、ちょっとおかしいのだが、しかしなぁ。
巨人ですかぁ。
ふーん。

あっ! 
阪神、1アウト満塁の決定機を逃した!
ぐおおおっ、悔しい〜!
んで、テキスト速報をあけてみると……

「ブラゼル、外角のスライダーを打つもダブルプレー。3アウトチェンジ」
 
なんでそんなに淡々としているんだ、てめえは……。

はい。ただいまゲームセット。
勝ったからいいけどね。へん。お尻ぺんぺん。





| スポーツ |
新刊発売記念トークライブします

新しい本が出ます。
『台湾自転車気儘旅』というタイトル。
内容はこんな感じ。

「台湾は世界でいちばんメシがうまい!」
と友人から聞き、
「じゃあ、台湾島の宝探しや。いちばんの感動メシを探してやろう」
と出かけた著者。
屋台メシを食い散らかし、発狂寸前の興奮を覚えながら、旅すること計1ヶ月。
ケガによる旅の中断&帰国から、さまざまな人々との触れ合い。
そんな旅のなかで出会った、いちばんの感動メシとは!?
ジャーン。

といった感じですが、ここまで読まれて、気づかれた人もいるかもしれません。
そう、「自分にとっていちばんの宝」を探して走った世界一周紀行、『行かずに死ねるか!』と同じ構造です。いわば、食べもの版『行かずに死ねるか!』 in 台湾。

宝探しというものに憧れがあるんですよね。昔から。
自転車という手段で旅をすると、その童心がますます刺激されるんです。

んで、今回の本は、これまでとはまったく違ったものになります。
フォトエッセイです。オールカラーでほぼ全ページ写真入り。本の形も横長。
これまでは「想像のさまたげになる」という思いで、本に写真を入れることに消極的だったのですが、今回は方針を180度転換。自分にとってはチャレンジです。
デザイナーさんがかっこよく作ってくれました。うふ。ご期待ください。
また、本のなかで紹介している店に行けるよう、地図などもあって、ちょっとしたガイド本としても使えるようになっています。


発売日は10月8日(金)。
出版社はメディアファクトリー。値段は1400円(税別)です。

んで、この発売に合わせまして、トークライブします。
場所はぼくの大好きなジャズバー「吐夢」。阿佐ヶ谷駅から徒歩3分です。
ここ雰囲気最高なんです。レトロでウッディで。あの空間でトークできるなんてちょっと、というか、かなり楽しみ。

内容は、まず枕に落語(笑)。それから本編。前半1時間はいつもの世界一周スライドショー、後半1時間で台湾のスライドショー(&台湾ネタ話)を、と思っています。内容は気分で変わりますが(笑)。

以下、詳細です。
要予約です。30名までなので、できればお早めに。

■日時
2010年10月10日(日)
OPEN  18:30
START  19:00
(終了予定時刻は21:00ですが、たぶん実質22:00ぐらいかと・・・。途中休憩はさみます)

■料金
1500円(1ドリンクつき)
※要予約・限定30名
 
■予約
店に直接電話をしてください(下記)。営業時間中にお願いします。

■会場
ジャズルーム「吐夢」
東京都杉並区阿佐ヶ谷南3-38-31 稲葉ビル2F
03-3220-1275(PM6:00〜AM3:00、月曜定休)

■備考
お店から。
「トークライブ中は、料理はストップさせていただきますが、乾き物など簡単なおつまみはご用意しております。食べものの持ち込みOKです」


10月22日(金)にもジュンク堂新宿店でトークやります。
こちらはお絵描き作家、とまこちゃんとのコラボです。
詳細はまた後日。


| 著書について |
夏いちばんの思い出

先日、取材で岩手県の久慈に行った。
ずっと訪れたかった町だ。
会いたい人たちがいた。

22年前になる。
ぼくは大学を休学して、自転車で日本一周をしていた。
久慈には夕暮れどきに着き、橋の下でテントを広げ始めた。
そこへオジサンがやってきて言った。
「ウチに泊まりなよ」
不思議な印象だった。親切にしてあげようという気配がまったくない。ご近所に「いい天気ですね」と声をかけるような雰囲気だ。

家に行くと、ちょっと驚いた。ラーメン屋さんだったのだ。しかも、あとあとわかるのだが、代々続く老舗で、遠方からも人が食べにくる超有名店だった。営業は午後3時までで、そのあとオジサンは犬の散歩をしていて、ぼくを見つけたらしい。

その夜は海の幸をどっさりふるまわれ、パンの耳ばかり食べていた19歳のぼくは、心の中で号泣しながら大ごちそうを食べた。
オジサンも奥さんもおおらかで、よく笑う人たちだった。彼らの自然な振る舞いや、あふれる温かさに、ぼくは心から甘えるような気持ちになった。
翌朝、ラーメンをいただいたのだが、これがまたおそろしくうまかった。自家製麺と、化学調味料無添加にこだわった鶏スープ。その澄み切ったやさしい味わいは、やはりオジサンの人柄がにじみ出ているようだった。

それ以来、久慈再訪を夢見ていたのだ。
三陸海岸を走るローカル線のなか、ひとりワクワクしていたのだが、でも「あまり期待するなよ」とぼくは自制していた。あれだけおおらかな人なのだ。ほかにも旅人を迎えているかもしれない。22年も前にひと晩だけお邪魔した若僧を覚えているわけがない。
とりあえず何食わぬ顔でラーメンを食べよう。
そして会計のときに、「じつは……」と言うのだ。
おそらく、オジサンは「うーん、そういえばそんなこともあったような……」と微妙な顔をするに違いない。それでいい。あらためてお礼が言えればいい。

で行ってみると、店の営業は終わっていた(爆涙)。
慌てて暗い店内に入っていくと、若い店員さんから、「スープがもう終わっちゃって」と言われた。ぼくは心の中で再び号泣しながら店を出たのだが、そこでハッと我に返り、
「アホか! あいさつだけでもしていかんかい!」
ときびすを返し、再び暗い店内へ。奥へずんずん進んでいくと、垂れ目の、人のいい顔をしたオジサンがいた。ああ、この人だ。急に懐かしさがあふれ、
「あ、あの、22年前にお世話になったんですが」
するとオジサン、開口いちばん、
「和歌山の?」
「ええっ!? 覚えてるんですか?」
「何年ぶりだー? 今何してるの? 家継いだの?」
なんとぼくの父がハマチの養殖をしていたことまで覚えていた(もっとも、父は組合で養殖をしていたので、家を継ぐというのはあたらないんだけど)。

オジサンはさらに「いまラーメン作ってやっから」と言った。
「え? スープは?」
「大丈夫。かき集めるから」
そうして22年ぶりにラーメンとも対面。透明なスープを飲むと、思わずため息が出た。澄み切った鶏の味わい。そうだ、この味だ。つづいて麺をすする。ああ、このモチモチ感。すごい、舌は覚えているのだ。うなりながら食べるぼくを、オジサンはニコニコ見ている。
「今日はどうするの?」
「これから南へ行こうと」
「またウチに泊まっていきなよ」
ぼくはポカンと、彼の顔を見た。オジサンは22年前と少しも変わっていなかった。

ということで、またまたしっかりお邪魔し、そしてやはり大宴会となり、なんだか泣きたくなるような夜を過ごした。
翌日、彼らに別れを告げ、南へ走り始めた。そのときいろんなことを思ったのだが、それは今月20日発売の『サイクルスポーツ』をご覧ください。って、やらしい展開だけど、ここに全部書いちゃ、編集長に怒られますって(って、十分書きすぎだな、こりゃ……)。

んで、東京に帰ってから、お礼の意味をこめて、ぼくの郷里が誇る紀州の梅干をネット販売で購入して送ったら、すぐに彼らからラーメンが送られてきた。きりがないやん! と思いつつ、麺をゆがき、ストレートスープを温め、食べてみると、やっぱり超うめえええ! 

べつに宣伝するわけじゃないけど、この味、ぼくはほんと好きなので、みなさんもよかったら味わってみてください。
電話1本で注文できますよ。

らーめんの千草 0194-53-6997 

100%鶏のスープです。野菜も入れないそうな。澄んだ味になるわけですね。口に入れると、最初はシンプルな味に思えますが、そのあとすごいうまみが広がっていきます。

ま、ラーメンほど嗜好の分かれる食べものもありませんからね。豚骨コッテリでないと物足りない、という方にはお勧めしませんが。

しかし考えてみると、7月と8月は寝ても覚めても仕事だったので、この久慈でのひと時が、ぼくにとって、この夏最大のイベントになりました。
なんか……すごくよかった。

あ、ここまで書いて思い出したけど、父の郷里の小倉にも行ってました。ほかにも虎を応援しに甲子園にも行ったし、エレカシライブも行ったし。よく考えたら今年の夏もいろいろありました(なんじゃそりゃ)。


| |
日本一周チャリダーが来た

先週末、秋田県立大学で講演してきました。
オープン参加だったので、会場を見渡すと、老若男女さまざまなお客さん。
そのなかにひとり、色の黒い人がいました。
アフリカの留学生かな?
日本語大丈夫かな?
英語を交ぜながら話したほうがいいのかしらん。
などと考えながら、結局すべて日本語で話しました。

休憩のとき、その留学生がぼくのところにやってきました。
あれ?
よく見ると日本人やん。

話を聞くと、チャリダーでした。
日本一周中らしく、東京を出て11ヶ月。
そのあいだに真っ黒になったらしいです。

講演のあと、ちょっとしゃべったのですが、彼は旅行中に『行かずに死ねるか!』を読み、ネット経由でこの講演会を知ったそうな。
じつは1週間前に由利本荘に着いたらしいのですが、わざわざこの日まで待っていてくれたそうです。鳥海山に登ったり、男鹿半島を走ったりして、時間をつぶしながら。

なんとも、申し訳ない。

自転車を見せてもらうと、驚きましたね。
何十年も前のランドナーです。
自転車屋さんの倉庫に転がっていたものを格安でゆずってもらったそうな。
ギヤは6段。
現在の自転車はだいたい8段か9段ギヤなので、交換するときが大変らしいです。
デッドストックを探し回らないといけないみたい。
彼、市川高詩くん(すごい名だ)は黒い顔に白い歯を浮かべて、こう言いました。
「この自転車、オジサンの食いつきがすごくいいですね」

はい。
このオジサンもしっかり食いつきました。

こんな自転車です。
携帯のカメラなんで、ちょっと不鮮明ですが、チェーンカバーにご注目。
たしかに昔はこうだったよなあ。
秋田県立大の前で撮影。



別れ際、旅のサイン帳を出してきて「一言お願いします」と彼。
ああ、なんか懐かしい。
ぼくも日本一周のときは、みんなにメッセージを書いてもらいました。
知床で泊めてもらった校長先生が書いてくれた言葉は、いまでも胸にやきついています。
「疲れたら休みなさい。友はそう遠くに行くまい」
ツルゲーネフの言葉だそうです。
こりゃ、ぼくも含蓄のある言葉を書かなきゃ。

そのあと市川くんは、
「日本一周が終わったら、世界を目指します」
と言って、元気よくこいでいきました。
頼りない先輩ですが、アドバイスをひとつ。

世界に行くなら、自転車は変えたほうがいいよ〜。
(だって、その自転車のパーツ、どこにもないもん)

あ、ちなみに、彼のサイン帳にはこう書きました。
「日焼けのしすぎに注意してください」










| 生活 |
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