きのうはオフィス「マクドナルド」でお代わり自由のコーヒーを飲みながら原稿を書いた。このところ連日である。
断っておくと、僕がこのオフィスで仕事をするのは、べつに個人オフィスをかまえる資金がないからでは“決して”ない。仕事の合間に人間観察をするためだ。
阿佐ヶ谷のマクドはこの目的遂行に最適で、かなりおもしろい人に出会うことができる(バーガーキングやモスバーガーなどではなぜかあまり会えない)。
きのうは今季一番の猛者に会った。
歳は30代なかば。見た目はウィレム・デフォーをさらに凶悪にした感じ。
この男が店内に響き渡るような大声で、隣に座った客にかたっぱしから、ものすごく強引に話しかけるのだ。
「お兄さんたち、高校どこ? ああ、俺の後輩じゃん。お前ら知ってるか? 芸能界は同性愛者だらけなんだってよ。〇〇も同性愛者だってよ。〇〇もだってよ。グーグルに全部出てるんだよ。グーグルってのはよ、アメリカの大きな会社だからウソは書かねえんだよ。お前らAKB好きか?」
男子学生たちは途中から完全無視である。それでも男はしゃべり続ける。やがて学生たちは出ていく。
しばらくして女子高生が座る。
「お姉さん、どこの高校? おお、頭いいねえ。俺は早稲田受けたけどよ、落ちちゃって二浪したんだよ。浪人って暇だぜえ。何もすることがねえんだからよ。結局早稲田ダメでさあ。だから俺、高卒なんだよ。でも早稲田行かなくてよかったなって今では思うんだよ。お姉さん、このお札(ふだ)あげる。これすげえんだよ。男も女も自殺したくなくなるってお札なんだよ。ポケットに入れときなよ」
女子高生はそそくさと出ていく。
やがてマッチョなお兄さんが隣に座る。男はふたたび大声で始める。
「お兄さんいい体してるねえ。ボディビルしてるの? 俺はベンチプレスで145キロあげたよ。お兄さん、美人な女好きか? 美人な女はいいよなあ。美人な女は薔薇の香りがしてさあ。美人な女とは何時間いても飽きねえよな。お兄さん、待ちなよ、いまグーグルで潔癖症の芸能人調べてやるからよ」
という感じで、僕はおかしくて肩がずっと震えっぱなしなのだが、不思議なことに店内を見回すと誰もがポーカーフェイスなのである。入店直後はみんな男の声に驚いた様子でそっちを見るが、そのあとは完全に無視で、笑っているのは僕ひとり。なんとなくシュールである。それにしても、みんなよく耐えられるなあと感心してしまった。
そのうち、毎日やってくるラスタヘアのお婆さんが僕の隣に座り、スーパーで購入してきたとおぼしきコロッケを食べはじめた。お婆さんはこの店でドリンクすら買っていないのだ。
そのうちやはり毎日現れるお爺さんもやってきて、お婆さんの隣に座った。そして2人でなぜかやたらと大声で話す。お婆さんは声が大きいうえにものすごく早口である。これも毎日の光景である。この店はユニークな人が多いのだ。
その向かいの席では若いお姉さんが鏡を出し、人前だというのにまつ毛にマスカラを塗っている。その隣の席では成人男性とおぼしき男がDSでゲームに夢中になっている。世の中、ユニークな人ばかりである。
さて、出ようか、と僕はパソコンを閉じる。結局8時間もここで原稿を書いていた僕も、ちょっとおかしな人である。
※これ、土曜日に書いて更新し忘れていました(笑)。