昨夜はサカキマンゴーのライブへ。
アフリカの親指ピアノ奏者の、今や日本の頂点にいる人だろう(詳しいことは知らないが、たぶんそう)。
彼とは数年前、ジョイントライブをやった。
僕のトークライブのアフリカ編にゲストとして来てもらったのだ。
そのときは僕がいちおうメインだったので1部と3部を担当、ゲストのマンゴー氏は2部を担当、という構成だったのだが、2部で彼が演奏を始めると、会場に来てくれたお客さん全員が彼のワールドへと引っ張っていかれ、僕もすっかり酩酊、その後僕が第3部のステージに立つと、僕のトークに来てくれたはずのお客さん全員から、「引っこめ!」「誰だお前は!」「帰れ!」「ふざけんな!」の大ブーイング、空き缶まで投げられる始末だった(誇張表現あり)。
その後、彼と話をすると、人としても非常におもしろく、経験値もすごいので、僕の連載『リアル旅人図鑑』にも出てもらった。
という関係。
で、おもしろいものである。
1か月ほど前に、マンゴー氏のことをふと思い出し、こっちでライブとかないのかな、とつらつら考えていたのである(彼は大阪在住で、活動は関西が中心)。
するとその数日後、彼から「渋谷でライブあるけど来ない?」とメールが来たのだ。
というわけで、変態ジャズピアニストのタケシと、その愛妻なみちゃんを連れて3人で行ってきた。
いやぁ、やっぱすげえすげえ。
オリジナル曲もよいけど、僕の場合、琴線に触れるのはやはりアフリカっぽい曲。旅の記憶が呼び覚まされ、脳がチーズのようにとけてしまう。
くわえて相変わらずトークも絶妙。
大笑いし、うっとりし、はあ気持ちよかった、と会場をあとにし、居酒屋へ。
その店がまた大衆店のくせに、というと語弊があるけれど、アユの塩焼きがびっくりするぐらい美味で、じつによい1日でした。
*
彼、新しいアルバムを9月4日にリリースするそうです。
んで、これから東北をまわるようです。
7月1日 福島市
7月2日 仙台市
7月3日 盛岡市
7月4日 石巻市
7月5日 岩手県東磐井郡藤沢町
詳しくはこちら→コンサート情報
ほんと、おすすめですよ。
今さら、という感じだけど、『邂逅の森』を読んだ。
いや、すごい。
ある考えから、ここには読んだ本の感想はあまり書かないのだけど(だから当ブログのカテゴリーに「映画」はあっても「本」はない)、この小説は文句なし、という感じ。
キャラの造形も物語の展開も、その他あらゆる点でほとんど非の打ちどころがないように思える。とにかくおもしろい。非があるとすれば、展開させるための仕掛けにやや無理を感じるところと、ご都合主義的なところが多少あるぐらいか。でも普通に読めばまず気にならないはず。
マタギの話である。
でも場面は山の中だけじゃない。さまざまに変わる。
人生そのもの。『ベン・ハー』のようなスペクタクルロマンだ。
後半、オフィス「マクド」で読みながら、あるシーンでドカッと、自分でも驚くぐらい涙があふれてたいへんだった。
近くにいた客たちは相当気味が悪かったと思う。
想像してほしい。
42歳のオッサン(ヒゲつき)が、本を読みながら、大粒の涙を次々にマクドナルドのトレイにこぼしているのである。醜怪きわまれりである。
というわけで、オススメですよ。
僕の住まいのまわりには古本屋が4、5軒ある。
これもまた阿佐ヶ谷という町を愛する理由のひとつだ。
それだけ密集しているのに1軒もつぶれないのがまたいい。
そんな古本屋密集地に、最近また1軒、新しい古本屋ができた。
結果として僕の住まいからいちばん近い店となったのだが、それだけでなく、じつにセンスを感じさせる店で気に入っている。雰囲気も品揃えもいい。蒐集癖のない自分なんかでも、ハードカバーの全集が棚にきれいに並んでいるのを見るとワクワクしてしまう。またその全集が尾崎一雄や上林暁のものだったりする。じつになんというか、店主の嗜好が見える店っていいですね。
それで、初めてその店に入ったとき、僕はついやってしまった。
己の本探しである。
小さな男なのだ。
僕は『行かずに死ねるか!』でデビューする前から、そして今もずっと心に描いているイメージというか、目標があって、できているかどうかは別にして、明確にそれに向かって書いている。
ひとつは旅にも自転車にもまったく興味がない人が読んでおもしろいもの。
それともうひとつは簡単にブックオフに流れないもの。
というわけで、ブックオフや古本屋に入ったとき、たまに自著を探してしまう。
そして見つけるとガックリする。一度は100円コーナーに並んでいて、寒風が体の中を駆け抜けた。なかなか切ないものである。
しかし、阿佐ヶ谷のこの新しい古本屋の品揃えを見たときは、逆のことを思った。
ここに拙著があればいいなと。
この店主はかなり本を選んでいるように思われる。しかもそのセンスがなかなかいい。こんな店に拙著が置かれていたらうれしいなっと。
だが、なかった。
「ま、まあ、しゃあないわ。巷にどんだけ本があるっちゅうねん」
と己に言い聞かせ、店を出た。
その翌日、隣人Yくんが遊びにきた。
「あの古本屋いいですねー」
「あ、Yくんもやっぱそう思う?」
「で、見つけましたよ」
「何を?」
「石田さんの本」
「!?」
『行かずに死ねるか!』のハードカバー版が、きちんと棚に刺さっていたというのだ。
盲点だった。僕は文庫本コーナーしか探さなかったのだ。
んで、翌日、早速見に行った。
あったあった。
内心ニコニコである。よくぞ選んでくれました。
(もっともその棚には、なぜこれが? という本も並んでいたが)
奥付を見ると、2刷のやつだ。残念ながら帯がない。このハードカバー版は帯のみに写真がついているため、帯をとると真っ白な表紙に題字だけ、というデザインになる。
少しイヤな予感がした。いくらの値がついているんだろう?
もし100円だったら「アー!アー!」と心の中で叫びながら、即効買ってやろう。
と、おそるおそる、値段が書かれているとおぼしき最終頁を見てみると、、、
「………」
うふふ、と僕は微笑み、その本を棚に戻した(ちょっと飛び出させて)。
おわり。
あ、500円でした。
僕は阿佐ヶ谷という町に住んでいる。
この町がいかに文化レベルが高いかという話を一席。
昨日、近くの文房具屋に寄って、三菱の鉛筆を1本購入した。
柿色のボディで、うしろに消しゴムがついているやつだ。濃さはB。
校正作業にはこれがいちばんいい。
シャーペンはあまりよくない。芯が折れないかと無意識に恐れながら書いている。何かごまかしている感じがする。
言葉に魂を込めるにはやはり鉛筆だ。そして消しゴムつきのやつ。これが非常に大事である。なぜなら消しゴムを探す手間が省けるからだ。どういうわけか消しゴムは僕の前からしょっちゅう消える。あれは本当に不思議だ。
って、そんな話はどうでもよくて。
阿佐ヶ谷の文化レベルの話である。
とにかく鉛筆を1本買った。63円なり。
なぜ1本にしたかというと、何本かまとめて買うとすぐに消えるからだ。
あれは不思議だ。5本買うと、気が付けばあるとき2本になっている。それからしばらくして1本になり、やがて0本になる。つまり5本の鉛筆が、いつの間にかすべて忽然と消えているのである。まるでマジックみたいに。
ところが1本だけしか買わないでおくと、その1本がチビるまで僕の手元に残るのである。
なぜそんな現象が起こるかといえば、5本買うと「5本もあるから大丈夫だろう」と油断して粗略に扱うからで、逆に買うのを1本だけにしておけば、その1本に愛情をすべて注ぎ、大切に使うからである。いわゆるカントの法則だ。
とはいえ5本より1本のほうが長持ちするなんて、おかしな話ですね。ぷっ。
おしまい。
ではなかった。
阿佐ヶ谷の文化レベルの話だ。
その1本の鉛筆を買ったあと、僕は店のお婆さんに「鉛筆削り貸してもらえませんか?」と聞いた。なぜなら、そのあとオフィスバーガーキングに行って校正しようと思っていたからだ。ここで削っておけばすぐに作業ができる。
するとお婆さんは「じゃあ、削ってあげますよ」とニッコリ笑い、引き出しから消しゴムサイズの鉛筆削りを取り出して、それに僕の鉛筆を突っ込み、コリコリと手で回し始めた。
それが終わると、お婆さんはとがった鉛筆を僕に渡して再びニッコリ笑い、こう言ったのである。
「35回」
「は?」
「鉛筆を回した回数」
「………」
「35回でほら、とがりました」
なんたる文化レベルの高さ!!!
A出版の編集者Oさんに誘われ、銀座のバーへ。
などと書くとセレブな感じがするが(そうでもないか)、そうではない。
まずその店の名が「ビーチバー・ワイキキ」という。
いつの時代のセンスか。
そのビルがある通りも、銀座とはいえ場末感たっぷり。野良犬がうろついていそうな裏通りだ。
そして店自体も、どのへんがビーチバーで、どのへんがワイキキなのか、まったくわからない。店内の様子はなんといえばいいのか。いや、詳しい描写は避けよう。
なんでもその店は誰でも望めば1日店長ができるらしい。
で、編集者Oさんは1日ママをやることになったという。
集まられたのはサブカル系の不思議な方々。
UFOも心霊も大好きな僕は身を乗り出して話を聞くことしばし。
樹海&廃墟探検家の栗原亨氏も来られていた。
その氏に、ビーパルで連載している僕の記事『リアル旅人図鑑』にいつか出てもらいたい旨を話し、「何かおもしろい旅グッズありますか?」と聞いたら、「ばけたんですね」という返事。
ばけたん……「お化け探知機」のことである。
こんなの。
はたしてビーパル的にOKだろうか……?
(僕は好きだけど)
エレカシって何?
営業マンがよく言うやつ?
そりゃ、オタメゴカシや〜。
という人は、以下、読まないでください。
しつこいようだが、昨日の話をさらに書く。書かせていただく。
変態ジャズピアニストのタケシから、「エレカシのミヤジ先生に会った! しゃべった! 握手した!」というメールをもらった直後、僕は嫌がらせのようにタケシに何度も電話したのだが、ヤツは出やがらなかった。妻が浮気中だと風の噂で聞き、妻に電話したが一向に出ない、というアレである。悶々である。
眠れない夜を過ごしたその翌日、タケシから電話があった。
昨日はバッテリー切れで出られなかったそうだ。
ま、それはいいとして、どういうシチュエーションでミヤジに会ったかというと、将棋の名人戦の途中、タケシが席を立ち、喫煙室でひとりタバコを吸っていると、向こうから黒服長髪の男がやってくる。くはは、ミヤジみたいなヤツだな、と思っていたら、その男も喫煙室に入ってきて、タケシくわっとまなこを開き、
「わ!本物じゃん!」
という次第。
なんと!
つまり!
喫煙室でミヤジ先生とツーショット!
「昔からファンです!」とタケシは超ダサイ台詞を吐いたらしい。
するとミヤジ先生は「あー、そうですかあ」とじつに愛想よく答えてくれたそうだ。
それから音楽のこと、将棋のこと、いろいろ話したそうだが、とにかく「優しくていい人」という印象だったそうである。
あと、しゃべるときはやっぱり髪をクシャクシャにしていたそうだ。
それから将棋の会場に戻ったが、タケシは興奮して頭空っぽ(もともと空だが)。ミヤジのほうを見ると(席も近かったらしい)、いかにも将棋好きの少年という顔で対戦を見守っていたそうである。
また会場には500人ぐらいの人がいたそうだが、誰もミヤジと気づいていないようだったとか。
会場まで足を運ぶほどの将棋ファンと、エレカシファンはどうやらあまり交わらないようである。
タケシだけがその僥倖を体中に味わっていたわけである。
なんかシュールだなあ。いいなあ。くそぉ〜。
でも話を聞いて、僕はタケシを許すことにした。
なぜなら、彼はミヤジに、
「僕の友だちも大ファンで仙台までライブに行きましたよ」
と僕のことを話したからである。ナイス。
僕という存在が髪の先でもミヤジ大先生に伝わればいいのだ。
神保町で打ち合わせの帰り、変態ジャズピアニストのタケシから「超自慢」というタイトルのメールが入った。
内容はこうである。
*
いま甲府。
将棋の名人戦を見にきてるのだけど…
ミヤジ大先生に会った!
握手してもらった!
そしてしゃべった!
良いだろー。
*
ミヤジ大先生とは、言わずと知れたエレファントカシマシのボーカル、宮本浩次大先生だ(ミヤジもまた将棋が大好きなのだ。しかし甲府まで見にいくとは……)。
我は憤慨した。嫉妬に猛り狂った。
こちとら今年に入ってエレカシのコンサートに3回足を運び、野太い声で声援も送っているのである。偶然出くわすという僥倖は、アホのタケシにではなく、我に与えられるべきではないか?
(と、ファンの多くは思うだろう)。
頭に来たので、帰り道に1足1500円もする超高級靴下を2足買った。
先日、また笛吹き想くんの来襲に遭った。
彼は僕の部屋に入るなり、靴下を脱ぎ、横になるのである。
「忙しいんだけど」と僕。
「気にしないでください」
「邪魔なんだけど」
「僕は大丈夫ですよ。あははははははは!」
早々に帰ってもらうために「神の生姜焼き定食」を作ってあげた。
「おいしいですねえ」
「なんでもおいしいんやろ?」
「いえ、僕はまずかったらはっきり言いますよ。あ、でもこれまで一度も言ったことないなー」
「やっぱり」
「味って、僕、どうでもいいみたい。あはははははははは!」
と、いつものどうでもいい会話がおこなわれたあと、想くんはこんな話をしてくれた。
彼は必ず1回の訪問につき1回のおもしろネタを披露してくれる。
今回の一時帰国の際、インドの空港で彼の笛が引っ掛かったらしい。
その笛には鉛が入っていて、どうやらそれがセンサーに引っ掛かったようだ。
「これはなんだ?」と係官に聞かれ、笛だと説明したが、わかってもらえない。
係官は「じゃあ吹いてみろ」と言った。
すると想くんは、
「え? いいの!?」
と目を輝かせ(僕の前でも目を輝かせながら言った)、空港の天井を震わさんばかりの大音量で思いっきり吹きまくった。係官は「わかったわかった、もうやめろ」と慌てて制止した。
「なんだよ、これからなのにー。気持ちよかったのになあー」と想くんはヒンディー語で係官に言ったあと、「あはははははは!」といつものように哄笑したそうである。
インド人を圧倒する日本人というのは、そういないと思う。
今年1月に行われた芥川賞受賞式はインパクトがあった。
当時よく「美女と野獣」という見出しで紹介されていたが、若い女性と中年男の2人がその賞をとった。
受賞後のコメントも対照的である。
女性のほうはこう。
「あなたという読者に向かって手紙を書くように、小説を書きます」
一方のオッサン。受賞はどこで聞いた? との質問に、
「自宅で。そろそろ風俗へ行こうかと。行かなくてよかったです」
この会見を見て、読むなら当然後者だと思ったのだが、これまで手が伸びなかった。
このオッサン、いや西村賢太氏の作品が私小説だからだ。
このジャンルがどうも好きではない。
露悪趣味だと思うことが多々ある。
いや正直言えば、本当は好きなのだけど、嫌いといっておきたい、そんなところがある。
でも先日、隣人Yくんが「全然おもしろくなかったです」と貸してくれたので、この西村賢太氏の受賞作『苦役列車』を読んでみた。オフィス「サンマルク」で、チョコクロを食べながら。するとひとりで肩を揺らし、ケタケタ笑いながら、自分の原稿にまったく手をつけることなく一気に読了。めっちゃおもしろかったのである。
私小説だけど、三人称で語られている。
その距離感がいい。
いわゆる「神の視点」が、主人公に寄り添いながら、ふいに主人公を突き放し、冷徹にこき下ろす。そのユーモアの巧みさ。読者に快感を与える工夫がみごとになされている。だから私小説ではあるのだけど、私小説を読んでいるときに抱く鬱屈した感じがない。カラッとしている。
まったく救いのない、ひどい男のひどい話なのだけど、読後感はじつに爽快。やっぱり小説はいいなあ、としみじみ思うのである。
あ、女性受けはあまりしないと思います(笑)。
土曜日は日本大学の某会で講演。
久しぶりに大学キャンパスを歩いたが、明るい空気がやっぱり懐かしい。
で、日曜日はまた行ってしまった。
エレカシ全国ツアー最終日、東京ドームシティホール。あはは。
その後、ライブの余韻をたっぷり引きずりながら、リーくんの新居へ行き、リエちゃんとりーくんの手料理に舌鼓。
僕は自分のことをなかなかの料理上手だと思っていて、最近も「神の豚しょうが焼き定食1万円」などと当ブログでほざいていたが、まさに井の中の蛙。リー&リエの手から繰り出される魔法のような料理の数々に、いや、参りました、自分うぬぼれていました、と自己株が一気に暴落。これを受け、「神の豚しょうが焼き定食」も値崩れを起こし、現在、780円となりました。
ただ、こんな一面も。
「どれもうまいねえ。ぜんぶオリジナル?」とリエちゃんに聞くと、
「そうなのー」と彼女は天然ボケキャラ満開の笑みを浮かべながら、さらにこう続けたのだった。「クックパッドの料理っておいしいよね」
ぼくはわからなかったが、リーくんも同行した虎キチKも固まっていた。
聞くと、クックパッドというのは料理レシピのサイトらしい。
出来あいのソースなどを使わずにつくれば「オリジナル料理」になる、とシェフは思ったそうな。
いやあ、いろいろご馳走様でした。