先日、映画『ちょき』の試写会に行った。
全編和歌山市ロケということで、
関係者のHさんからお誘い頂いたのだ。
(ま、僕は紀南の白浜生まれだから、
紀北の和歌山市とは文化も言葉も違うんだけど)
その数日前にも、
和歌山県の田辺市でロケをやったという
別の映画の試写会に行ったのだが、
こちらは登場人物が
紀南名産の梅干しを干しながら標準語をしゃべるので、
イスからずり落ちそうになった。
映画自体も、悪くはなかったが、
積極的に人に勧めたいほどではなかった。
(部分的に惹かれるところはあったが)
なので、今回の『ちょき』も正直気が進まなかった。
全盲の少女と美容師の男性の心の交流?
いまどきなんとベタな設定だ。
中身がなんか透けて見えるな。
主演は誰だ? お、吉沢悠か。
彼はいいよなぁ。でもこの女の子は誰だ?
増田璃子…? 申し訳ないが知らない
それにこのチラシ…なんか暗いな。
なんでこの写真にしたんだろう。
(だから上には別のチラシを載せました・笑)
とまあ、はっきりいって行こうかどうか悩んだ。
でも原稿がちょうどきりのいいところまで書けたし、
何より誘ってくれたHさんの「ぜひ見てみて」という
言葉が妙に気になった。
で、渋谷の試写室まで行ったのだが、
冒頭から「あれ?」と思った。
画面から静かにあふれ出してくる空気がいい。
淡々としているのだが、
編集が小気味よくて、うっとりする。
それに、この脚本。
なんて自然なんだろう。
言葉の選び方が的確だ。
過不足のない、絶妙の一点を突いて
言葉が組まれているという感じがする。
”説明”を排した最小限の台詞なのに、
必要な情報がすべて伝わってくる。
演出がうまいからでもあるだろうけど、
脚本がとてもよく練られていて、
すごい完成度だ。
それを語る吉沢悠も相変わらずいい。
東京出身のはずなのに関西弁も自然じゃないか。
(前述のとおり、紀北と紀南では
言葉が微妙に違うので、
完璧な紀北弁だったかどうかはわからない。
でも違和感は全然なかった)
そしてなにより、主演の増田璃子。
なにこの子?
和歌山の子なの?
これ演技なの?
だとしたら、とんでもねぇ。
名女優じゃないか。
いや、まさか…。演技じゃないでしょ。
それにやっぱりこの監督、すごいな。
演出も編集もなんて手練れなの。
ベテランなんだろうな。
誰なんだろう。
チラシで監督の名を一瞥したときは、
記憶になかった気がしたけど。
などと最初はいろいろ感心しながら観ていたのだが、
途中からはもうそんないろんな思考がすっ飛んで、
物語の中にずっぽり埋没していた。
完全に僕の好みに合致したのだろう。
(和歌山という要素は正直、関係ない・笑)
さりげない言葉、控えめな表情と演出、
そして劇中のレコード音楽、
あらゆる要素がとにかく気持ちいいのだ。
このまま映画がずっと続けばいいと思った。
終わらないでくれ、とすら思った。
読書でそう思うことはよくあっても、
映画鑑賞ではなかなかない。
すごいぞ、すごいぞ、ただごとじゃないぞ、
と思いながら観ていたら、
物語の後半、
思いもかけない反応が自分に起こって、
びっくりした。
そして最高のカタルシス。
あまりにもよかったので、
誘ってくれたHさんにすぐさま
「びっくりしました!」
から始まる暑苦しいメールを打った。
その日1日、何度も場面がよみがえってきては、
カタルシスを味わった。
観賞してから約1週間たつが、
いまでも思い返すたびに心地よい世界に浸る。
それなりにおもしろく観たが、
余韻がなかった『君の名は。』とは好対照だ。
もっとも、あっちは
ありったけの前評判と情報を頭に入れ、
期待を最大限に膨らませて観たから、
評価が落ちるしかなかった、
という面はあるのだろうと思う。
『ちょき』は真逆で、
期待ゼロどころか、マイナス20ぐらいから観ただけに、
あとは上がるしかなかった。
くわえて情報もほぼゼロで、
チラシのキャッチコピーぐらいしか読んでおらず、
物語がどう進んでいくか、
まったく予想がつかない状態で観たのだ。
そのおかげで、静かな映画なのにドキドキした。
ま、そんな期待と実際とのギャップが
評価に影響したのは間違いないが、
それを念頭においても、
やっぱりこの映画は素晴らしいと思う。
見事な完成度だと思う。
あとで監督の金井純一氏が33歳だと知って、
本当に驚いた。
ついでにいえば、増田璃子さんは東京の人だった。
今年は僕個人にとっても映画豊作の年で、
ほぼ毎回「うわー!いい映画観た!」と興奮しながら、
劇場をあとにしてきたのだけど、
ここに来て今年最高の映画に出会ったような気がする。
作品のよしあしというのは比較できるものじゃないけど、
余韻の長さは僕の中では間違いなく一番だ。
『スポットライト』や『ハドソン川の奇跡』
の余韻もすごかったが、
『ちょき』はそれらを凌いでいる。
なんだろう。
「よかった」とか「おもしろかった」とかじゃなく、
本当に愛すべき作品に出会えた、という喜びだ。
吉沢悠の「ちょき」さんや、
増田璃子の「サキ」が、
映画が終わってからも僕の中で生きていて、
そして彼らのことがたまらなく好きなのだ。
*
というわけで、よかったらぜひ観てください。
僕と同じように、白紙の状態で観てほしいから、
このブログでは映画の内容にはあえて触れませんでした。
でもこれだけ書いたら期待してしまうか…(苦笑)。
期待しないでください!!!(笑)
石田に騙されてみよう、ぐらいの気持ちで行ってみてください。
できれば公式サイトも予告動画も見ずに行ってください。
(何度も書くけど、予告動画は絶対見ないで!)
そしてよかったら感想聞かせてください。
もっとも、「好み」なので合わない人には合わないでしょうけど、
(なんでもそうだけど)
でも是枝監督の作品なんかが好きな人には
とくにおすすめです。
僕も今度はお金を出してもう一度観にいきます。
まずは今週の土曜日11月19日から、
和歌山県の各劇場で先行上映があります。
次いで、各地で順次。
といっても上映劇場が少ない!
こんなにいい映画なのに!
ほんとこの喜びを共有したいので、
リンク張れば済むところを、
わざわざ公開予定劇場を下に書き写します(笑)。
一応、リンク先はこちら→『ちょき』上映劇場
11月19日(土)〜
ジストシネマ和歌山
イオンシネマ和歌山
ジストシネマ御坊
ジストシネマ田辺
ジストシネマ南紀
12月3日(土)〜
東京:渋谷HUMAXシネマ
12月17日(土)〜
北海道:シアターキノ
福岡県:中州大洋劇場
12月31日(土)〜
愛知:シネマスコーレ
1月21日(土)〜
大阪:シネ・ヌーヴォ
京都:京都みなみ会館
兵庫:元町映画館
近日公開 ※日程未定
岩手:盛岡中央映画劇場
栃木:小山シネマロブレ
長野:シネマポイント
以上。
くぅー、いまのところ15館か。
しかも渋谷HUMAXに電話で聞いたら、
上映期間は2週間とのこと。短けぇ!
(劇場によってはもっと短い場合もあるかも。
ご注意ください)
口コミで上映劇場が増えないかな。
観て、この作品が気に入ったら、
どんどん広めてください!
*
ところで、『この世界の片隅に』も
めっちゃ好きになりそう。
こうの史代が大好きなので。
どんなことがあっても観にいく予定。
いまヤフー映画の口コミ評価見たら、
なんと驚愕的に高いがな。
”僕的今年一番”が並ぶか?
今年はほんと豊作だなぁ。